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第5話

恋愛をした事がなかった訳ではなかった。 騎士団候補生だった頃にも、騎士になってからも、男しかいない閉鎖的な環境下で本能的に行動する事もあった。 彼女の死でそうした感情も失っていた俺にとって、アレクサンドルは俺にその感情を取り戻させた。 「先生、遅くなってごめんなさい。課題がなかなか終わらなくて……」 「……気にするな」 夕刻。 馬の世話を一通り終えたところで、アレクサンドルがやって来た。 厩務員から運動が必要な馬を聞き、2頭確保していた俺は彼を連れて騎乗する事にした。 「敷地の外で馬に乗るなんて初めてです」 「来年になったら外での実技もあるぞ」 「わぁ……楽しみです!!」 スピードは出さず、並んで歩く。 夕日のせいだろうか、少し赤らんでいるように見える頬。 愛情という感情は危険だ。 ほんの少しの事でも自分勝手に嬉しくなったり傷ついたりする。 そうなりつつある事を自覚しながらも、一度気づいてしまったこの想いを止める事が出来ない。 ……ただ、この胸の内に留めておく事は出来る。 「先生、今日はありがとうございました。外の景色が見られてすごく楽しかったです」 小一時間ほど、ただ並んで馬に乗って歩き、厩舎に戻ってきた。 アレクサンドルは笑顔で俺に礼を言ってくれる。 「それは良かった」 「先生、オレ、卒業したら先生と一緒に戦いたいです。先生が馬に乗って戦っている姿、見てみたいです!!」 辺りは日が沈みかけて暗くなってきているのに、アレクサンドルの瞳はその輝きを失わない。 俺の心を掴んで、離さない。 「……戦場はそんなに生易しいものじゃない。お前も俺も共に無事生きて帰れる保証など何処にもない」 それを知られまいと、俺は敢えて厳しい言葉を彼に投げかける。 「分かってます。それに馬の事だって守らなきゃいけない……ですよね?だからオレ、馬を大切に思う先生と一緒に戦いたいんです!!」 大きな瞳の中に俺を映しながら、アレクサンドルは言った。 「……強情な奴だな……」 けれど、それさえも愛おしく感じた。 「無事卒業出来たら考えてやってもいい。俺が騎士団に戻れるのか分からないがな」 「先生なら絶対戻れます!!国王陛下もお喜びになりますよ!!」 屈託の無い笑顔で話すアレクサンドルに、俺も少しつられて笑ってしまっていた。 「……だといいけどな……」 卒業までに、彼の気持ちが変わる可能性だってある。 そうでなければ……俺は……。

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