5 / 26
第5話
恋愛をした事がなかった訳ではなかった。
騎士団候補生だった頃にも、騎士になってからも、男しかいない閉鎖的な環境下で本能的に行動する事もあった。
彼女の死でそうした感情も失っていた俺にとって、アレクサンドルは俺にその感情を取り戻させた。
「先生、遅くなってごめんなさい。課題がなかなか終わらなくて……」
「……気にするな」
夕刻。
馬の世話を一通り終えたところで、アレクサンドルがやって来た。
厩務員から運動が必要な馬を聞き、2頭確保していた俺は彼を連れて騎乗する事にした。
「敷地の外で馬に乗るなんて初めてです」
「来年になったら外での実技もあるぞ」
「わぁ……楽しみです!!」
スピードは出さず、並んで歩く。
夕日のせいだろうか、少し赤らんでいるように見える頬。
愛情という感情は危険だ。
ほんの少しの事でも自分勝手に嬉しくなったり傷ついたりする。
そうなりつつある事を自覚しながらも、一度気づいてしまったこの想いを止める事が出来ない。
……ただ、この胸の内に留めておく事は出来る。
「先生、今日はありがとうございました。外の景色が見られてすごく楽しかったです」
小一時間ほど、ただ並んで馬に乗って歩き、厩舎に戻ってきた。
アレクサンドルは笑顔で俺に礼を言ってくれる。
「それは良かった」
「先生、オレ、卒業したら先生と一緒に戦いたいです。先生が馬に乗って戦っている姿、見てみたいです!!」
辺りは日が沈みかけて暗くなってきているのに、アレクサンドルの瞳はその輝きを失わない。
俺の心を掴んで、離さない。
「……戦場はそんなに生易しいものじゃない。お前も俺も共に無事生きて帰れる保証など何処にもない」
それを知られまいと、俺は敢えて厳しい言葉を彼に投げかける。
「分かってます。それに馬の事だって守らなきゃいけない……ですよね?だからオレ、馬を大切に思う先生と一緒に戦いたいんです!!」
大きな瞳の中に俺を映しながら、アレクサンドルは言った。
「……強情な奴だな……」
けれど、それさえも愛おしく感じた。
「無事卒業出来たら考えてやってもいい。俺が騎士団に戻れるのか分からないがな」
「先生なら絶対戻れます!!国王陛下もお喜びになりますよ!!」
屈託の無い笑顔で話すアレクサンドルに、俺も少しつられて笑ってしまっていた。
「……だといいけどな……」
卒業までに、彼の気持ちが変わる可能性だってある。
そうでなければ……俺は……。
ともだちにシェアしよう!