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第9話
「ただいま、ミーシャ」
「あぁ、お疲れ様、アレクサンドル。今回も大活躍だったそうだな」
その優秀さを買われ、アレクサンドルは3年目で分隊長の任を与えられ、俺とは合同で戦いに出ない限り一緒に戦う事はなくなっていた。
分隊長になってからの彼は、非番の日になると必ず俺の部屋を訪れて酒を飲み交わし、時にはそのまま泊まっていく事もあった。
それでますます仲が疑われるようになったが、俺は変わる事無く自分の秘めた想いを口にする事はなかった。
「守った土地の領民が作っているお酒をお礼にくれたんだ。一緒に飲みたくて持ってきたんだけど……」
そう言って、アレクサンドルは太めの長い瓶を俺に差し出してくる。
初めて会った時より幾分歳を重ねてはいるが、その青く大きな瞳の輝く整った顔立ちは変わることなく俺を含めて多くの騎士たちを魅了し続けていた。
「いつも済まない」
「ううん、その代わり酔いつぶれたらベッド貸して」
「……仕方ないな……」
今や人気者となっているアレクサンドルが俺だけに甘えてくれている、と思いたかった。
俺がグラスをふたつ用意すると、アレクサンドルはその酒を注いでくれる。
「「ザ・ズダローヴィエ!!」」
健康のため、と言いながら、アレクサンドルとの酒はついつい進んでしまいがちだ。
アレクサンドルも悪酔いせず楽しく飲めるのだが、酔いが回ってくると俺に対してのスキンシップが多めになってくる。
「……でさ、新しく入ってきた奴なんだけど、技術もあって明るいのはいいんだけど少しお調子者なんだよね……」
「それは厄介だな。自分の力を過信していないといいが」
「そうなんだよ。親が騎士団だったとかで小さい頃から馬と触れ合ってきたから大丈夫、っていうのが変な方向にいかないといいなぁって思ってさ……」
ふたり掛けのソファに座って酒を飲んでいるが、アレクサンドルはその距離を少しづつ縮めてくる。
「初めて会った時にオレに憧れて入団してきたっていきなり言われて、普段からオレにすごく話し掛けてきて、ちょっと面倒なくらい……」
空になったグラスをテーブルに置くと、アレクサンドルは俺の肩にその頭を載せて寄り添ってきてくれた。
「オレもミーシャに出会ったばかりの頃、こんな感じだったのかなって思ったりもするんだけど、ミーシャもオレみたいに思ってたのかなって……」
話しながら、アレクサンドルは眠ってしまう。
「……面倒だと思った事など一度も無かったぞ、俺は」
そう呟いて、俺は彼を抱き寄せてしまっていた。
愛馬の死でどん底にいたあの頃。
そこから俺を救い出してくれたのがアレクサンドルだった。
「ミーシャ……」
離れようとすると、アレクサンドルが俺の背中に腕を回してくる。
「……こんなところで寝ちゃダメだよ、ミーシャ……」
「…………」
寝言を言うその姿が愛おしくて、俺はその頭を撫でていた。
すると、寝ているアレクサンドルが嬉しそうな表情を浮かべてくれる。
「……どんな夢を見ているんだ、お前は……」
返ってくる事のない質問を投げかけると、俺はアレクサンドルをベッドに運んで寝かせ、自分はソファで寝る事にした。
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