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第10話
翌朝、熟睡しているアレクサンドルをそのままにして、俺はひとり厩舎に来て馬の世話をしていた。
馬の身体を洗い、その毛並みを整えていると、誰かに見られている感じがした。
「ミーシャさん、ですか?」
アレクサンドルより少し高めの声の方を向くと、そこには茶色の髪に茶色の目をした少年が立っていた。
俺とそんなに変わらない身長で、気が強そうに見える少しつり上がった目。
その目が俺を睨むように見ていた。
「誰だ」
ついその目に冷たい目線を送ってしまう。
「初めまして、今年入団したイヴジェーニです。サーシャさんの隊に所属してます」
イヴジェーニ、と名乗った少年は動じる事無く話していた。
「あの、サーシャさんとは恋人関係なんすか?」
「いや、アレクサンドルとは学校時代から親しくしているが恋人では……」
「じゃあ、サーシャさんの事、好きじゃないならもう仲良くしないでもらえますか?」
「!!」
その言葉に、俺は一瞬動揺してしまう。
「オレ、サーシャさんに憧れて騎士団に入ったんです。サーシャさんの事、誰よりも好きだっていう自信があります。サーシャさんはあなたの事をすごく大切に思ってるみたいですが、あなたがそうじゃないならサーシャさんの傍にいるべきじゃない」
何故だろう。
言われて腹立たしい筈なのに、言葉が出て来なかった。
俺の方がアレクサンドルをずっと傍で見てきたと言いたいのに。
「……全然動じないんすね、新入りに何を言われても平気って事すか。サーシャさんはそういうあなたの姿がカッコイイって思ってるんすよ。それがオレは…聞いててめちゃくちゃイライラする」
「…………」
怒りに任せて胸倉を掴み睨んでくる彼を
、俺は無言のまま見つめていた。
周囲の目を気にしてずっと想いを秘め続けている俺よりも、他人に堂々と自分の想いを公言出来るくらい気持ちの強いこの少年の方がアレクサンドルにはお似合いの相手なのかもしれない。
「……分かった。お前がそこまでアレクサンドルを想っているのなら、俺はその妨げにならないように行動する……」
イヴジェーニの手を払うと、俺はその場を立ち去っていた。
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