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第16話 本当の気持ち②

「好きかどうか以前に、あの方は女王であって、母ではなかった。私のことも周りの側仕えのことも見てはおられぬ。あの方の瞳に映るのはただひとり、在りし日のレムリア妃だけだ」  物心がつく頃には母とふたりきりだった。父親のことは何も知らないし、知りたいと思わなかった。母はそれほどに俺を深く愛し、慈しんでくれた。病に倒れ亡くなる寸前まで、まだ幼い俺を心配してくれていた。  でもアルは、母親に愛情をかけて貰えなかった。きっと、悲しみが大き過ぎて、分け与えられるだけの愛情が育めなかったのだろう。アルはずっと独りで、寂しかったはずだ。「寂しい」という感情さえ、押し殺してきたのかもしれないけれど。 「だから、かつての妃が三匹目の子を生んだ後亡くなったと聞いたあの日、女王が窓から飛び降りたとしても不思議ではない」 「飛び、降りた……?」  前にスウードは不慮の事故で亡くなったと言っていた。さっきも「窓から転落」したのだと。 「女王は喪服に身を包んで窓枠に立っていた。最期に私を振り返って、まるでお前もこうなると言うような光の無い眼を向けていた。そしてそのまま……向こうに消えた。私しか見た者は居らず、表向きでは事故だとされたが」  アルから身体を離して顔を見ると、時々見せる物憂げな表情をしていて、胸が締め付けられるようだった。  この狭い塔の中で、毎日窓の外を眺めているアルを思い浮かべる。いつか──アルも向こうに行ってしまう気がする。 「アル、この塔を出よう! 外に出たら、きっと楽しいよ!」 「……何故そうなる。ロポの考えることは支離滅裂で理解に苦しむ」 「だって……!」  ずっと様子を覗っていたのか、スウードが部屋に入ってくる。アルは苛立ちを露わにして、俺を突き放すように肩を押した。 「ロポを連れ出せ。仕事ができん」 「申し訳ありませんっ……」  スウードに外に出るように促されて渋々従う。 「ロポ、読み終えた本は棚に戻せ」  部屋を出る時にアルにそう声を掛けられて、「分かった」と返事をしたけれど、そういえば全部部屋に置きっぱなしだった。 「アルは……王様は、αだからこの塔から出られないのか?」 「まあ……そうだな。今まで記録のある王はいらっしゃらない」  下の階に下りて広間に戻る。「世界の植物図鑑」が床にひっくり返っていた。本を持ち上げると紙が折れ曲がっていたので、慌てて平らになるように伸ばす。 「……ただ、番が居る状態なら、他のΩの誘引も効き難くなる。それが運命の番であれば──」 「え! じゃあ番になれば良いんじゃんっ!」  十日以上経っても話題にすらならないのですっかり忘れていたが、そもそも自分が連れてこられた理由は、アルと番にするためであったはずだ。俺と番になることはアルにとっても都合が良いのだし、その上この塔から出られる唯一の方法だ。 「って……番ってどうやったらなれるんだ?」  スウードの顔を真っ直ぐに見上げる。が、目が泳ぎ顔を背けられた。少し顔が赤いようにも思えるし、耳が後ろに倒れ、尻尾がゆらゆらと下向きに揺れている。 「発情期(ヒート)を迎えたΩとαが……その……なんというか……」

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