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第30話 幸運という名の犬④

 ──誰かどうか助けて欲しい。  純粋で全く悪意が無いだけに、惚気話かと簡単に切り捨てられない。そもそも、その辺りの知識も乏しいから、起こる疑問なわけだが、しかしそれを未経験の僕の口から語り聞かせるのも可笑しな話だ。どうにか当たり障りなくやり過ごすしかない。 「だ、大丈夫だ。陛下は繊細な方だから、ロポに気を遣っているだけで、その……子作りが嫌になったわけではない、かと」 「……ほんとに?」  涙を拭って僕を曇りの無い目で見てくる。期待されている。 「恐らくだが……未成熟なロポに、強いたくないとお思いなのだ。番になるために必要だっただけで、そうでもなければ、ロポも応じなかったはず、と」  よもやこれは拷問ではないだろうか。何故このての話が苦手な上、全く未経験な僕が、アドバイスなどしているのか。 「だから……ロポの気持ちを伝えたら、いいんじゃないか」 「うん! 城に戻ったらアルに子作りしたいって言う!」  ──陛下、申し訳ありません。僕はとんでもない助言をしてしまいました。どうかお許しください。  表情がパッと明るくなり、喜んでいるロポを見詰めながら、この後起こるだろう出来事に深謝した。 「おい、スウード。誰だその子は?」  声に驚いて振り返ると、警備の交代にやってきた同僚が不思議そうに僕と丈の合わないローブを頭から被っているロポを見る。 「用水路から流れてきたんだ。水浴びをしようとしたらしくて、服も着ていないし、宿舎で何か服を着せて門まで送っていくよ」 「そうか、大変だったな、坊主」  同僚はロポの頭を撫でて、僕から棒を受け取る。まさか自分の目の前に居るのが王妃だなんて気付かずに。  ロポが何か言おうとしたのを慌てて背中を押して歩くように促した。 「王妃だと知れたら大騒動だ。早く帰った方がいい」  今頃城では大変な騒ぎになっているのではないだろうか。更に僕に会うために抜け出したなんて知れたら、変な噂を立てられるかもしれない。  陛下もロポの気持ちを分かってはいても、あまり良い心地はしないだろう。  ロポは気が付いていないだろうが、塔で生活している間、ロポと親しげに話をしていると、僕に牽制するような視線を向けていた。恐らく、αとしての本能からくるものだろう。  陛下にとっては彼が運命の番だったわけだから、余計にそれが強く作用していたように感じる。  近くの宿舎で身体を拭いて子供用の服を着せてから、門を目指して歩く。ここからだとすぐの場所だ。 「あ! 大事な話忘れてた!」  もう門が見えてきたところで、ロポが声を上げた。 「俺の食べてた実が、じつは図鑑に載ってるのとはちょっと違うやつなんだって。あの図鑑の実の生る木は高い山にしか生えないらしいんだ」 「そうなのか」  図鑑の内容はちゃんと読んではいないから分からないが、ロポの住んでいた森は温暖で湿度が高かった。本来高地気候に植生する樹木なら、確かに新種の可能性が高い。 「お医者さんが何か身体に悪い成分があるかもしれないからって、犬族の国から取ってきてもらって調べてくれたんだけど、そしたらΩだけじゃなくてαにも抑制の効果がありそうなんだって!」 「αにも……?」

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