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第4話
三年C組。柴田直樹。十七歳。引き締まった肉体に精悍な顔立ち。そのくせ子犬のような丸い瞳。この俺より背が高いくせに、柴田の瞳は常に上目遣いで俺を見てくる。水泳部のエースで、スポーツ推薦で大学を狙っている。学食の生姜焼き定食が好き。勉強は不得手で追試の常連組。
柴田に告白されて一週間、これだけの情報が増えた。
――先生、オレ先生のこと好きです。
「酒豪のあんたがたった一杯で酔っちゃったの? 顔が赤いわよ」
「……そうだな」
「もうあたしがあんたに言うことはないみたいね。こんなところでウジウジしていないで、さっさと帰りなさいな」
「なあ、また来てもいいか?」
「あたしはいつでも歓迎よ、織弥ちゃん」
「……ありがとな、ママ」
店を出ると街はまだ活気があった。時刻を確認すると、まだ十時前。正直飲み足りない。だからといって別の店で飲み直す気分でもない。さっさと帰るか。
東口に向かって歩いていると、思いがけない人物に出会った。
「……篠川先生?」
ああ、間が悪すぎる。
「先生どうしてこんなところで……」
「俺がこんなとこいちゃ悪いのか、柴田」
「歌舞伎町っスよ! 治安悪いじゃないですか」
「そういうお前はどうなんだ。学生だろ。クソガキが来る場所じゃねえぞ」
「この辺でバイトしてるんスよ。金稼ぎたいんで」
「おいおい、うちの学校はバイト禁止だろ」
「あ」
「まあ、お互い見なかったことにしようぜ。また学校でな」
軽く手を振り、俺は柴田をやり過ごそうとしたが、その手をぐっと握られた。
「先生、ホモなんスか?」
「それが?」
「ホモならオレと付き合ってくれてもいいでしょう。なんでオレじゃダメなんですか」
「柴田ぁ……」
素人相手にキレてはいけないと理性ではわかっていた。
「お前な、この俺と付き合いたいとぬかしながら、ホモだと?」
「ホモじゃないですか」
「最低だな。蔑称っての知らないのか?」
「えっ……」
「多少はお勉強してから口説きに来いや、クソガキ」
俺は柴田の手を振り切り、雑踏の中に身を隠した。
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