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第6話

「柴田、お前の気持ちはよくわかった。俺も正直に話そう。俺はお前のことが嫌いじゃない。男が好きなことも、男と寝ていることも本当だ。だからこそ柴田、俺はお前の気持ちを受け入れられないんだ」 「……オレのこと、嫌いじゃないんですね。嬉しいです。でもダメなんですね」 「ああ」 「なんでオレじゃダメなんですか……」 「俺が罪に問われるんだよ!」 「え……?」 「いいか柴田。お前は高校生。未成年だ。そうだな?」 「はい」 「対して俺はアラサーの大人だ。理解できるか?」 「何か問題でも?」 「さっきも言ったが、未成年に手え出したら、たとえ合意だろうが大人の俺が罪に問われるんだ。それはお前も困るだろう?」 「そんなのバレなきゃ問題ないでしょ」 「後ろめたいことは大抵バレるんだよ。お前がバイトしていたのも簡単にバレただろうが」 「あーそうっスね。バレました」 「お前も俺と同じくらいの歳になればわかるさ。俺だってお前の歳の頃はそうだった。怖いものなんかないと思っていた」  そうだ。若い頃は相手の年齢問わず、遊びまくっていた。責任なんて子供の自分にはないと知っていたから。相手が破滅しようがどうでもいい。  一度妻子持ちの男と遊んで軽く修羅場になったことがあったが、俺は金をもらってそれで終了。相手の男に対しての気持ちもないし、むしろ小遣い稼ぎができて幸運だとも思っていた。 「俺は自分さえよければそれでよかったんだ」 「そんなこと言わないでくださいよ……」 「いや、これが俺が本心だから」 「本心って」 「本心っていうか、俺そのものだな。遊びまくっていた過去も俺の一部だし、真面目くさった態度で保健室の先生やってる今の俺も俺の一部だ。過去を反省する気はないが、大人になって色々もまれて、ある程度の分別はつくようになった」 「……オレも大人になったら、あと三年? 待てば、先生の気持ちがわかるんですか?」 「さあな、ハタチ超えたとしても理解できるかどうかはお前次第だ。俺から見たらお前らも大学生のガキも変わんねえ」 「先生……オレ、先生の話聞いても、やっぱり先生と――」 「……俺の気持ちも理解してくれ」 「先生……?」 「柴田、もっとこっち来い」  ソファーで縮こまっている柴田に声をかける。  柴田は腰を上げ、一歩ずつ俺に近づいてくる。  俺の目の前に立つと、柴田はどこか上の空でスラックスのポケットに手を出し入れしていた。 「柴田、お前三年待てるか?」 「三年……」 「先に断っておく、即答するなよ。お前が三年待って成人したら、考えてやらなくもない。お前はそれまでの間、俺への気持ちを持ち続けられるのか? できないだろう?」 「できますっ!」 「……即答するなって言ったろ」 「できます! オレ、先生のこと、ほんとに、本当に好きなんです。先生が男だからとか関係ない。オレは織弥先生だから好きなんです!」 「おいこら、名前で呼ぶなって――」 「織弥先生……いや、織弥さん」 「……クソガキが」 「織弥さん。オレ、大人になるまで先生のこと想い続けます。だから先生も、オレを、オレのことを……」 「あのなあ、柴田。俺は誰かに縛られるのは嫌いなんだ。その点理解しろよ」 「諦めませんよ、オレは」  ああ、このクソガキは――。 「先生がどこにいようとも、先生が誰と遊んでいようとも、オレは絶対に諦めない……っ」  雄の目をしている。  この俺が興奮しているのか。  ゾクゾクとした刺激が俺の背筋にほとばしった。 「……可愛いなあ、柴田」 「可愛くないっス」 「可愛いよ……お前は可愛い……お前に触れられないのが正直もどかしい」 「先生?」 「悔しいが、どうも俺はお前に惚れてしまったらしい……」 「……嬉しいです」 「柴田、三年間我慢できるか?」 「いまさらですよ、先生」  柴田は膝をつき、丸椅子に座る俺と同じ目線になった。 「俺が先生のことを好きな気持ちが誰よりも熱いってことは、他ならぬ先生自身が知ってるじゃないですか」 「……それもそうだな」  柴田の頬が赤みを帯びているのは熱のせいじゃないってことも、体温計を使うこともなく見て取れた。

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