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捕食者と従属者1

 捕食者が突如現れて、少なくともこの国で公式に確認されてもう4年になる。  といっても一般には混乱を恐れて発表されていない。  彼らが引き起こす事件はテロリストの仕業と発表されている  どういう理由でそうなるのかは全くわからないが、ある日突然、化け物に変わる人間があらわれた。  外見はさほど変化しない場合が多いが、彼らには共通点というものはあまりない。  共通点は「人を殺す」ことと、「死なない」ことだけだ。  抑えられない殺人衝動を持ち、殺戮をくりかえす。  それぞれが特殊な能力を持つ。  彼らは「捕食者」と呼ばれることになった。  そしてわかったことは、「人間では殺せない」ということだった。  捕らえることに成功した例もわずかにあるが、ほとんどが、ただ人間が殺されるだけで終わった。  彼らは焼き尽くされ灰になってからでも再生する。  ただそこまですれば再生に数ヶ月を要するため、初期はこの焼き尽くす方法が使われた。  強烈な爆発物で灰にし、保管して、定期的に焼く。  しかし毎回現れる捕食者ごとに、あたり一面を焼け野原にするわけにもいかず、彼らに対抗できなくなっていた。  噂があった。  某国では「捕食者」を飼っていると。  「捕食者」は「捕食者」を殺すことが出来るのだと。  我々もその可能性にかけることにした。  確認していた捕食者の中からそれが可能な捕食者を探した。    そして選ばれたのがこの男だった。  自称26才。  名乗る名前は複数。  一切の記録がない。  始末屋として裏の世界で「イカレた始末屋」として通っていた男。  名前のない、過去のない男。  仕事以外でも殺人癖を持つこの男は、捕食者になっても殺人衝動に振り回されることなく、定期的に殺しを続け、裏の仕事ではあっても、きちんと仕事をこなす、変化前と変わらない生活を送っていた。  大金と週に一度の殺人を見逃すことで、男は捕食者狩りを引き受けた。  殺すことを仕事にしてきたこの男の適性は我々の想像以上だった。   ただ、捕食者の特性なのか、元々そういう気質なのか非常に危うい男だった。  今笑っていても次の瞬間殺されるかもしれないような。  目玉をえぐられた連絡員もいる。  目つきが気に入らない、それくらいの理由で。  それでも交渉が出来る程度にはマトモである、(多くの捕食者は理性すらない)適性のある捕食者は彼しかおらず、彼は必要であり、彼を監視し、直接連絡をとる我々にはそして、恐ろしい存在だった。  その恐ろしい男が今、私の目の前で少年に顔面に蹴りを入れられていた。  少年は綺麗な前蹴りを男の顔面に決めていた。  最近少年は、我々の空手道場にも通い始めている。  良い蹴りだ。 完璧なホームだ。  「怒らなくてもいいよねぇ~」  蹴られても男は笑っている。  鼻血を流しながら。  ・・・さすがに驚く。  「あんたはあんたは・・・」  少年は顔を真っ赤にして怒っていた。  そして、部屋にの入り口にいる私を見てさらに赤くなった。    私は男の管理責任者だ。    男には「犬」     少年には「スーツ」と呼ばれている。  彼らは二人とも私の名前を覚える気がない。  好きに呼べばいいと思っている。  男がある日突然連れてきた少年。  男の「従属者」だ。  捕食者は基本的に単体で動く。  破壊本能、殺戮本能のまま、暴れまわるだけで、食欲も、性欲も、睡眠欲もない。  だが、稀に、性欲を残す者が入る。  その捕食者と性交したものは、大概が性交の前後に殺される。  ただ、さらに稀に性交後に生き残る者もいる。  彼らは24時間後に身体が変化し、「従属者」になる。  首を切り離されない限りは死なない、捕食者に意志を縛られ従属する者だ。  ただ、少年は自ら「従属者」になった。  男が選ばせたからだ。  「殺されるか、専用の穴になるか」と。  男にとってセックスと殺すことは同意で、殺してから犯すか、犯してから殺すだった。  でも、それにも飽きていた。  そんな時、殺人現場に少年がたまたま迷いこんできてしまった。  少年は男が抱きたい時に好きに抱かせることを条件に、殺される代わりに従属者として生き延びている。  我々は高校生の少年が男の好きにされるのを黙認するしかない。  まぁ、男も高校生だとは思っていなかったようだが・・・。  我々には男が必要なのだ。  彼には犠牲になってもらっている。  だが、最近はどうにも、この二人のパワーバランスが変わった。  「・・・やあ、久しぶり、どうしたんだ?」  私は少年に声をかける。  まあ、少年が怒っている理由も私は知っているのだが。   「この人、この人、この人が!!!」   言いかけて真っ赤になり、少年はヘラヘラわらう男に更に顔面に回し蹴りをいれた。  大したものだ。  様になっている。  訓練の成果だ。  「あんた最低だ!」  少年は怒鳴って出て行った。    「あんなに感じてたクセに・・・」  男は全然悪びれていない。  

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