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捕食者と従属者2

 「僕にはどうしたんだ、とは聞かないんだな、この覗き見野郎」  男は少年には向けない顔をする。  「私は報告を受けるだけだから見てないぞ」  言っておかなければ目玉をくりぬかれかれない目付だ。  リビングのテーブルの上にあるティッシュを渡す。  男は鼻血を拭き取る。  確実に少年は鼻を折っていたはずだが、もう治っている。  私は彼らが、昼過ぎ公園のベンチでセックスしていたとの報告は受けている。  まあ、少年が怒っているのはそれだろう。  「我々が見ていることは分かっているだろうに、そんなところでしていて見るなと言われても」  私はため息をつく。  「・・・可愛かったんだよ」  男がにやける。  「向こうからキスなんかされたら、もう最後までするしかないだろ、それがどこであろうと」  「・・・そんな意見に同意出来るような人間だと思われていることは心外だな」  私は率直な意見を述べる。  公園は少なかったが、人は確かにいたそうだし、少年が怒り狂うのは真っ当だと思える。  「・・・アイツの役目は僕がしたい時にさせることだろ・・・」  男は言うが、少し少年の様子が気になり始めているようだ。  「・・・もしかしたら、本当に怒っているんだろうか、どうしよう」  オロオロし始めた。  もう、私のことなどどうでもよくなってきているようだ。  「・・・しっかり謝ることだな。それに、我々に見られていたことは言わない方がいいとおもうぞ」  私は忠告した。  「何故?」  人前でセックスすることはちょっとした刺激位にしか思わない男は不思議そうに言った。  「知らない人間より、知ってる人間にセックスしているところを見られるのは恥ずかしいからだ」  説明してやる。  「そうなのか・・・ありがとう」  素直にお礼を言われて面食らう。  お礼など言われたことがなかった。  男は明らかに変わってきている。  少年が現れてからの精神の安定ぶりは格段だ。 週一人の約束を破って殺し過ぎることもなくなった。  しかも、悪者を用意しろ、とこちらでは手に余る者達を始末までしてくれる。   全部、少年のためなのだ。  変われば変わるものだ。  前回の「狂犬」と呼ばれる捕食者の件でわかったことはある。  従属者を持つ、捕食者についてまだそれ程分かっているわせではないが、男や狂犬は従属者を得て変わった。    狂犬などは我々の予想を超える恐ろしい力を発揮した。  まだ私の仮説に過ぎないが、「捕食者は従属者を得て力を増す」  従属者を持つ捕食者は、程度の差はあれ、理性があり、破壊本能以外の意図でも動くことができる。  「捕食者とは従属者を得てやっと完全なのではないか」  これも仮説だ。    人間以上の力を持つモノがあまりにも不完全であることが不思議だった。  従属者を得てからの彼らは、人間以上のモノであることを証明するようなものを見せる。  そう、新しい捕食者もそうだ。   「・・・新しいケースの資料を置いていく、目を通しておいてくれ」  「・・・わかったわかった」  どうでも良さそうに男は言った。  頭を抱えているのは、どう少年に謝るかを必死でシュミレーションしているからだろう。  「捕食者と従属者だ」  私の言葉に、少し興味を示した。  狂犬とその従属者のケースは、男にも自分と少年について考えさせられるケースでもあったらしい。  「へぇ・・・強いのか?」  「わからない」  私は正直に言った。  「わからない?」   「今回のケースはかなり特殊だ。正直、どちら が捕食者なのかもどちらが従属者なのかも分からない・・・分かっていることは彼らが国を作ろうとしていることだけだ」   「・・・なんだ、それ・・・目的を持つ捕食者か」  捕食者は自分の為にしか動かないと思われていた。  人間を殺すだけの者だと。  目的意識を持ち人間と一緒に行動する捕食者。 特異すぎた。   

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