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闇の深淵2
家政婦は多分、長い支配に脳がもうやられていたのだと思う。
ぼんやりとボクを見たまま、僕の包丁を受け入れた。
妹は殺すつもりはなかった。
ボクが僕が弱かったから、ずっと助けてあげられなかった妹。
やっと助けてあげれたのに。
「兄ちゃん、もう、ええんや。ウチは疲れた。ホンマに疲れたんや・・・」
妹はボクの胸に頭をもたげた。
「ずっと数を数えとった。ずっと夜が終わるのを数を数え続けて待ってた 。もう、そんな風に生きていたないねん」
ボクの妹。
この狂った家で支えあってきた妹。
「もう、アイツはおらん、僕がおる」
ボクは叫んだ。
「兄ちゃんは人殺したから、どっか連れて行かれる、ウチは一人になる。もう、ウチは無理や」
いろんな人に色々言われるのも、騒がしいのも 、生き抜くのも。
「殺して。ずっと死にたかってん。もう、疲れてん、誰も助けてくれへんかったなぁ・・・ウチらのこと。ウチを助けようとしてくれたんは兄ちゃんだけや」
妹は微笑んだ。
可愛い可愛い妹は微笑んだ。
ボクの大事な妹は微笑んだ。
「兄ちゃん大好きや。・・・もう死なせてや」
妹の影が透けるようだと思ったのはいつからか。
妹は自分を殺すことで生き延びていた。
そして、今本当に死にたいと願っている。
「ボクを、一人にするんか・・・」
ボクは震えた。
ボクらはこの世界に見捨てられて二人きりだったのに。
「 兄ちゃんは大丈夫や、兄ちゃんはアイツに勝った。兄ちゃんやったら出来る・・・ウチには分からへん生きてる方がええ理由をみつけてみせて・・ ・」
妹の眼差しはこんなにも透明だっただろうか。
妹は懇願する。
懇願する。
だからボクは・・・。
この指を妹の首に・・・。
「兄ちゃん、ありがとう、兄ちゃん・・・」
妹の声、妹の声。
倒れながらボクは思った。
世界はあまりにも遠すぎた。
「お前大丈夫か」
声をかけられた。
目をあけた
金髪に染めた髪をした少年がボクを見下ろしていた。
頬を軽く叩かれた。
でもそれは思いやりのある触れ方で、嫌じゃなかった。
「ほっとけや、消えろ」
ボクは言った。
「ほっとけるかいや、拾ったろ」
ソイツは笑った。
犬か猫でも拾うような調子だった。
その笑顔には影がなかった。
どんなに笑っても、悲しみがにじんだ妹の笑顔を思い出し、ボクはまた泣いた。
「・・・泣いとるんか、余計にほっとかれへんやんか」
少年はため息をついた。
抱き起こそうとされて、ボクはキレた。
コイツ何を助けようとしてるんや。
コイツに助けられるレベルやないんや、僕は。
「ボクは人殺してきたんや、構うな」
少年を睨みつけた。
「その目は嘘やなさそうやな・・・」
少年はさらりと僕の視線を受け止めて言った。
「気にすんな、俺も一緒や。人殺して逃げてんねん」
にこりと言われて言葉をうしなった。
「逃亡者同士仲良くしよ」
手をのばされた。
手が伸ばされた。
初めてボクに手を伸ばしてくれたのは、コイツだった。
暗闇の一番奥で僕はその手を掴んだのだ。
それが、ボク達の出会いだった。
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