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捕食者と従属者4

 「あんたの家だ。好きにすればいい」  俺は言った。  ベッドに座ったまま膝を抱えて顔を膝にうずめて。  ベッドの前にあの人が立つ気配がした。  でも見ない。   好きにすればいい。  「・・・悪かった」  震える声が言った。  その声の調子に思わず顔をあげた。  あの人が真っ青な顔をして立っていた。  どうしたんだ、思わず心配になる顔だった。  「お前にキスされて、つい浮かれた。お前がそんなにも嫌がるとは思わなかった」  それを言うのに何故、そんなに真っ青なのか。  ごめんなさいなんて、最近良く言うのに。  「いいか、僕はな、お前以外に謝ったことなんかないんだ。僕がどんなに悪くても謝ったりなんかしたことがないんだ」  いや、そんなこと宣言されても。  それはだめだろ。  「謝るくらいなら殺してきた」  いや、もっとだめだろ。  あの人の血の気がどんどんなくなっていく。  「でも、今回は本当に悪かったと思っている。僕はお前のプライドを傷つけたんだな?」  どうやら、スーツに常識を説明されたらしい。  でも、なんで、こんなにこの人震えてるんだ? カタカタ震えて、顔色は真っ白だ。  「・・・だから、僕も僕のプライドを折らないといけない」  あの人はベッドの前の床に正座した。  ええっ、まさか。まさか。  あの人はふるえながら、床に手をついた。  ものすごい葛藤が分かる。   誰にも頭を下げたことのない男が、下げるくらいなら殺してきた男が土下座しようとしているのだと気付いた。   スーツ、あんたか。  あんた面白がって入れ知恵しただろ。  「・・・謝ったことがない、だから、身体が動かない・・・ちょっと待て・・・ちゃんと謝るから・・・」  あの人は硬直しながら言った。  頭を下げるのを身体が拒否しているのだ。  あの人が唇を血が出るほど噛みしめた。  頭がぎごちなく下がろうとした。   「もういい!」  俺はあの人に飛びついた。  そんなあの人は見たくなかった。   「もういいよ・・・」  あの人の背中を抱いた。  俺だって傷ついているけど、もういいと思った。  ずるいとも思ったけど、もういいと思った。  「許してくれるのか・・・」  あの人が言ったので、もう仕方なかった。   「うん」  そう言うしかなかった。  「知っている人に見られたわけじゃないし・・・諦める。でも、二度としないでくれ・・・」  あの人が俺を抱きしめながら一瞬震えた。  「そ、そうだな、知り合いはみてない」  男が何故かどもった。  おかしいと思ったけれど、諦めるしかないと思った。  また俺はこの人を許してしまうのだ。  この人と一緒にいるために。    

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