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記憶2

 「・・・初めてくらい女とし、手で抜いたるから。後でオレの抜くのも手伝ってや」    ソイツは宥めるように言った。  「・・・女はいらん。ボクは一生女とはせん。・・・セックスかてしたいと思ったことあらへんかった」 ボクは言う。  泣き叫ぶ妹。    耐える母。  ぼんやりと父親に抱かれる家政婦。  ボクは家の中で好きなように好きな時に好きな場所で犯し始める父親を見ていた。  女を抱く男に感じるのは、嫌悪だけだ。    女を抱くには、あまりにも妹の姿の痛々しさが脳裏にこびりついている。    性欲など吐き気がするもんやと思ってた。   でも。  コイツのすることは、アレとは違ってた。  あんなモノとは違っているみたいに思えた。     「ボクは・・・あんたにもっともっと入りたいんや」  キスよりも深くはいれるやろか。  そしたら、コイツ はもっと暖かいのだろうか。  このまなざしよりも暖かくて、冷たいくらい場所から逃れられる場所が、コイツの中にはあるのだろうか。  「情熱的に口説かれてもた。・・・あかんやん、オレかてしたいしな・・・」  くすり、とソイツは笑った。  その余裕が悔しかった。   ボクが欲しがる程には欲しがっていないことが。  「・・・まあ、途中萎えてもオレは怒らんで」  ボクの指をとり、ソイツは指先にキスをした。   それだけでボクは身体中に震えが走った。  コイツが。  コイツが欲しいのだと、身体が言っていた。  「ほな、服位脱がせてや・・・」  それが、始まりの言葉だった。  裸で抱き合った。  人の肌の暖かさに泣きそうになった。  妹はボクに殺されるあの瞬間まで、触れられることを拒否していたし、母親に触れられたり抱かれた記憶はない。  父親の拳や、平手や、蹴る脚が与える痛みの感覚だけが身体に残る人の感覚だった。  死に行く妹だけは、柔らかく愛おしい感触を残してくれたが、体温を失っていく身体を抱きしめる、あの記憶は悲しすぎた。  ボクはソイツを抱きしめた。  この身体からも体温が流れでてしまうのではないかと怖くて。  「こら、あんま力いれんな。痛いやろ。大丈夫や。何怖がってんのか分からへんけど」  背中を宥めるように撫でられた。    ボクはソイツの身体を食い入るように見つめた。  しなやかな身体は、柔らかな筋肉 がついていて、女の身体とは違い安心した。  「あちこち傷だらけやな・・・」  傷跡だらけの身体だった。  縫われた痕はよく見れば、目立たないが顔にまであった。  銃創まで見つけて、茫然とした。  「むちゃくちゃしとったからな。ヤクザに撃たれた」  ソイツは笑った。  「気に入らんもん叩き潰せば、世界は変わるかもしれん思ってな、徹底的にやっとったんや、ほんでヤクザ相手にそれやって、危うく殺されかけたわ」  絶句した。  優しい目や態度から想像もつかなかったが、コイツヤバいのかもしれんと思った。  「死にかけてわかったわ。そんなやり方やあかんのや」  そう言いながら今度はソイツがボクの身体を確かめるように撫であげる。  「背、高いな、180以上はあるやろ。身体もええ身体してるやん、なんかしてたんか?」  ソイツに触れられたら熱くなる。  股間に熱がたまる。  「・・・182や。なんもしとらん。ただ毎日木を殴ってただけや」  アイツを殺すために。  背はデカくなっても、身体も鍛えても、アイツを殺す覚悟がなかなかできなかった。  殴られ続けた身体も心も、アイツに逆らうことを許そうとしなかった。  やっと決意を決めた時にはもう遅かった。  妹はもう死んでいた。身体より先に死んでいた。  ボクが弱くて死んだ。   「・・・泣きな」  抱きしめられた。  それだけで安心した。  抱きしめられた胸にあるそこに指を伸ばした。  淡く色付く乳首。  「触ってもええか?」  ボクは先に触れながら、言った。  「もう触ってるやん・・・好きにしてええで」  ソイツは笑った。  ゾクリとした。  ボクはそこを弄り、舐めた。  止まらなくなって、吸い、噛んだ。  ソイツは喘いだ。  「がっつくな・・・オレは後ろも解さなあかんのや」  ソイツは苦笑した。  ボクが夢中になって胸にむしゃぶりついている間、ソイツは自分の指で、尻の穴を自分でほぐしていた。  「あ、いいっ・・・あ、あ」  自分の指なのか、ボクの舌のせいなのか、声を上げ、悶えるアイツに、またボクのものが硬くなる。  「舐めてや、・・・あっ、もっと・・・」  囁かれて戸惑う。  こういう時になんて言えばいいねん。  なんか胸の奥が甘い。  この気持ちは何やねん。  ボクにはわからなかった。

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