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捕食者狩り 尖風少女1
その捕食者は幼い少女の姿をしていた。
おそらく、この数日内に変化して、「捕食者」になった。
殺戮本能に完全に乗っ取られている。
幼ければ幼いほど、捕食者の本能に自分を明け渡してしまう傾向がある。
彼女は笑っていた。
小学低学年の少女がはしゃぐ声で。
遊んでいるようだった。
血まみれでさえなければ。
少女の通った後あとに広がるのが瓦礫と死体でなければ。
少女の右手が前方へと振られた。
無数の、目に見えない小さな杭につらぬかれたように、その右手の先にいるモノは穴だらけになる。
少女の前に立っていた男は、身体中にあまりもたくさんの穴をあけられたため、身体の向こう側が透けて見えるようになり、血を吹き出しながら倒れていく。
少女はそれを見て、さらに高い声をあげて笑った。
恐らく、空気がものすごい圧力で打ち込まれているのではないかと思われるが、彼らの能力は全く解明されていないのて、なんとも言えない。
「避難の誘導をしろ、そして、彼に連絡はついたか?」
私は怒鳴る。
少女はショッピングモールで暴れまわっていた。
窓ガラスは吹き飛び、少女の数メートル範囲内にいる者も物も、穴だらけになる。
「避難終わりました、フロア封鎖します」
「ターゲットの3メートル以内に近寄るな!それが射程圏だ」
私は館内の防犯カメラを見ながら指示を出す。
穴だらけの死体をズームアップさせる。
穴は直径二センチほどの大きさで、等間隔にきれいな円型に肉体をくりぬきながら無数に並んでいた。
穴を空けられすぎて、床が身体から透けてみえる。
パンチで開けた穴のように綺麗な穴で・・・。
私は気付く。
くり抜かれた肉片はどこにも飛び散っていない。
彼女が穴をあけた壁も、ガラスも肉体も、穴だらけのだが、その穴の部分はどこにもない。
消えているのだ。
この少女の能力は、穴を空けるだけではない。
穴をあけた部分を消し去る能力だ。
あの男の、「自分の手を変化させた銃で撃ったものを消し去る能力」と同じ。
ただ、男が一度に消せる範囲は、銃から撃ち出したモノ(何が銃から出ているのはあの男にもわからない)が
「命中した場所から直径50センチほどの範囲内」、
しかも、「再度撃つには10分ほど必要」であり、
「射程圏も5メートル」ほどである
というかなり限定的な能力であることを考えたならば、何度となく攻撃ができ、しかも、一度で相手を蜂の巣のように穴だらけに出来るこの少女の能力はとても強い。
いくら不死身の捕食者でも、身体を穴だらけにされて、その穴が空けられた肉体が再生されないのならば動くことすら出来ないだろう。
「情報を彼に流せ、彼はどれくらいでここにこれそうだ」
私は部下に尋ねる。
捕食者は捕食者にしか殺せない。
彼でなければならなかった。
ショッピングモールは封鎖したが、少女には封鎖など無意味だろう。
穴を空けて出てくる。
少女は殺せる人間がいないことをに退屈し始めていた。
「・・・出て行くつもりだ、マズいな」
街にでも出られたら・・・。
少女がショッピングモールにつくまでに何人殺しているのかわからないが、繁華街にでも出られたら、もうどうしようもない。
あの男は何をしている。
そろそろついてもいいはずだ。
そのために、我々に「飼われて」いるのに。
私はイラついた。
「・・・やあ」
音声を拾っているマイクからの音が、スピーカーから流れる。
誰かが少女に話しかけていた。
私はあわてて、モニターを眺めた。
人気がなくなったショッピングモール。
少女の前方に立つ人影。
少女の前にたっていたのは男ではなく、少年だった。
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