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捕食者狩り 尖風少女2

 少女は嬉しそうだった。  殺せるものが現れたからだ。  飛び上がって喜んだ。  少年の元へ軽やかに駆けていく。  殺すために。  子どもの軽やかな足音、無邪気な笑い声に鳥肌が立ったのは初めてだった。  「捕食者」の男じゃなくて、「従属者」の少年があらわれたところで何の意味もない。  捕食者は捕食者でしか殺せない。  従属者は捕食者にかなわないのに。    私は思わず立ち上がった。  椅子を蹴っていた。  思わず、走りだそうとしていた自分に気付く。  少年が殺されてしまうと思ったからだ。  私が助けられるはずがないのに。  「室長?」  部下が不思議そうに言った。  私は慌てて座る。  少年が殺されたら殺されただけのこと。  我々に必要なのは「捕食者」のあの男であって、「従属者」の少年ではない。  少年の価値は捕食者を扱いやすくするためだ。  それ以上の意味などないはずなのに。  ないはずなのに。  私は食い入るようにモニターの中の少年をみつめた。  少年は冷静に見えた。  どうするつもりだ?    少女は射程圏に入ると、右手を少年に向けて振った。  高い少女の笑い声が響く。  見えない何かが少年へと飛び、少年の身体を穴だらけにし、反対側が透けて見える身体にする・・・はずだった。  そうなれば、穴の部分が再生しない以上従属者は死ぬ、はずだった。  何を失おうと、肉の一片になろうと生きる捕食者とは従属者は違う。  首を切り離されたら死ぬし、臓器などが再生されなければ、生き返らない。  少女の空けた穴の部分の肉体は再生されない。  つまり、死ぬのだ。  私は少年が死んだと思った。  少女の右手か振られ、飛び出す見えない何かに、無数の穴をあけられて。  君は、何故・・・。  私は叫びそうになった。  何故君が出て来る、あの男はどこだ。  何故君を行かせた。  ここからは、数秒の出来事だった。  少年は、少女が手を振り上げようとした瞬間、少女へ向かって走りだした。  何を考えている。  自分から穴だらけになるつもりか?  私は思わず拳を握っていた。  少女の手が高く掲げられ、その手が振り落とされ、見えない何かが飛んでくる、一一〇その瞬間、少年は跳んだ。  少年はあまりにも高く跳んだ。  少年に向かって飛んでくる、見えない沢山の何かの上を、そして少女の頭上を、飛び越した。  あまりにも鮮やかな跳躍だった。  まるで羽根のあるかのように軽やかに彼は飛んだ。  ああ、彼は・・・。  彼は助走なしでも、楽々と垂直に1メートルは跳ぶ。  彼の訓練をした時、私はそれを見たはずだったのに。  短距離も、走り幅跳びも、走り高跳びも数々の中学生の記録を驚異的に書き換えた、天才陸上選手だったのだ、彼は。  少女には彼が消えたように見えただろう。  それでも彼女は振り返った。   逃げられた怒りに震えている。  次は逃げられない。  恐らく少女は連続で攻撃してくるだろう。  もう跳んだぐらいでは避けれない。  なのに、少年は涼しい顔をして少女をみつめている。  少女は、可愛いかったはずの顔を恐ろしいまでに歪めて、また右手を振り上げ・・・。  その右手が消えた。  正確には右手から胴体の腰までがほぼえぐられるように消し去られた。  「・・・はい、そこまで」  右手を銃に変えた男がいつの間にか少女の後ろに立っていた。    少女は右腕と胴体のほとんどを消され、叫んだ。  男の銃は撃ったものを、消し去る。  それでも、「捕食者」は死なない。  でも 、もう少女の見えない何かを飛び出させる右腕は消し去られていた。   今の少女は、「不死身」なだけの、無力な生き物だ。     床に倒れ泣く顔は 、普通の子どもの顔だった。  男の顔が残酷に笑った。  男は少年を囮にして、少女に忍び寄っていたのだ。  確実に少女に近づき撃つために。  男の右手が銃から、刀へと変化する。   「捕食者にだって、痛みはある。・・・なら楽しめるよな」  無力な少女となった捕食者に、男は近付く。  「・・・好みの男を刻むのが一番なんだけど、別に刻むだけなら、お前でもいい」  少女の左腕を掴み、刀で切り落とした。  少女は絶叫した。  血が吹き出す。  人間のように。  「助けて、助けて!」  幼い少女が泣き叫ぶ声が痛々しい。   銃がまた撃てるようになるまでは10分ある。  男はその間を少女をいたぶりながら待つ事にしたようだった。  乾いた笑い声を上げて、切り離した左腕を放り投げた。  「叫べ、喚け、僕を楽しませろ・・・」  男はうっとりと笑った。  切り離した左腕は床から生き物のように蠢き、少女の元へ這いずるように向かっていく。  そして、切り離された場所から互いに触手のようなものを出し合い、また元通りになっていく。  これを見れば、彼らが人間ではないことを思い知らされる。   

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