少年が泣く。 　ポロポロと涙を流し、耐えられないように何度も頭を振りながら。 　それは、その最中でもそうなのかと思わせられて。　　 　モニター越しのその顔に、私もまた欲情してしまったのだ。 　そして、男もまた食い入るように少年を見ていた。 　男は立ち上がった。 　刀に変えていた右手が、銃に変わった。 　ろくに見もせず、少女を撃った。 　10分経ったのた。 　少女は上半身を完全に失った。 　残った脚だけが蠢いていた。 　男にはもうそれはどうでも良かったようだ。 少年への欲望だけが今はすべてだった。 　完全に少女からは興味を失っていた。 　ただ、少年を見ていた。 　近づき、少年を武器には変わることない左手で抱き寄せた。 　少年の後頭部を掴み、唇を塞いだ。 　唇を貪ると、少年の流した涙を舌で舐めとる。 　「・・・お前は甘い、甘過ぎる。可愛い女の子の姿をしててもコイツは違うんだ」 　男が囁く声が聞こえた。 　「分かってる・・・分かってるんだ」 　嗚咽する少年の声が聞こえた。 　「・・・後で抱くからな、クソ。やりたい」 　吐息混じりに男が呻いた。 　驚いた。 　今までなら、このまま無理やりでもやってしまうのだが。 　「ここは、カメラがあるからね・・・犬達に見られるのは・・嫌だろう・・・」 　男は言っていた。 　「良く言う・・・」 　私は思わず呟いた。 　彼らの部屋以外は基本的に彼らは監視されている。 　私は報告以外知らないが、部下達はしっかり彼らのしているところを見ている。　 　我々は部屋以外は監視しているわけで。 　何人かは「あの子色っぽい・・・男でもイケる気がしてきました」などと言っている。 　それを男や少年に言うと命の保証がないことは、皆理解しているので、顔や態度にも出さないが。 　男に至っては見られてるのを分かっていてやっていたくせに、男は今になってシレっと人目が気になるからなどと言い出した。　 　片腹痛いとはまさにこのことだ。　　 　この前あの子に怒られたのがよっぽど堪えたようだ。 　本当に土下座したかは知らないが、あの男が謝るだけでもすごいことだ。 　ただ、面白いと思ったのは、殺してはいけない等を一切理解しない男が「お前はあの子のプライドをへし折ったんだ」との説明にものすごく納得したということだった。 　殺してはいけないはわからないが、プライドを傷つけることはいけないことはわかるのだ。 　独特の倫理観だ。 　「でも、後10分待たなきゃ帰れないから、キスだけでもしよう・・・」　 　男は少年の唇にキスを繰り返す。 　「見られてるんだろ・・・」 　少年は真っ赤になる。 　「だからキスだけ・・・」 　甘く囁きながら男は唇を啄む。 　「ダメだって・・・」 　そう言いながらどんどん流されていく少年は淫らで。 　ぼんやりと上気した顔で。 　口を自ら口をあけ、男の舌を受け入れていた。 　モニター室の全員が無口になっていた。 　全員モニターから目を離さない。 　あの男、絶対分かってやっている。 　わざとだ。 　それでまた後で、「見ただろう」とぶちキレる理不尽な男だ。 　クールな、決して女性的ではない顔立ちの少年が、キスで妖しく乱れていく様は、確かに危険な魅力があった。　　 　そんな顔をするんだな。 　訓練中や、話をする時の顔とは全然違った。 　ひどく淫らで心を乱された。 　私は目をそらす。 　これ以上、少年に惹かれるわけにはいかない。 　私は男性には興味なかったはずなんだが、調子が狂う。 　私は監視者であり、優先すべきことは捕食者を管理し、彼の協力を取り付けることだけだ。 　彼に男の元から逃げる時は殺すことを宣言したのも私だ。 　少年に男の精神の安定のために性奴隷になることを要求したのは私だ。 　彼に惹かれてはいけない。 　それでも、少年には危険な魅力があった。 　あの男は分かっているのだろうか。 　あの男や、私のような人間には、あの少年のような人間が一番危険であることを。 　「男がもう一度ターゲットを撃ち、消滅させるのを確認したら、撤収する」 　私は言った。　　 　今回は良かった。20人近く死んだが、それでもただ、本能的に殺戮を繰り返す捕食者は始末しやすい。 　突然現れるが、その日のうちに片がつく。 　問題は・・・。 　私は男にファイルを渡した新しいケース思った。 　・・・どう対処すればいいのかわからなった。 　こればかりは、男に任すしかない。 　モニターの向こうで、少年と男は淫らなキスを貪っていた。