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潜入2

 「強かったんだ、鬼のように。そして、カリスマがあった。どうにも人を惹きつける人間らしい。むしろ喜んで彼らは『抱かれた』がった。聞き込みで彼らは言ってたらしい。『抱いてるはずなのに抱かれてた』と。彼とすることが不良仲間でのステータスみたいになってたらしい。男も女も彼に夢中になった。もっとも女は無理だったみたいだがね、でも、彼女達は自分を抱くこともない男のために何でもした」  スーツは説明する 。  この「彼」の調査の結果を報告したスーツの部下は言ったのだと。  この「彼」について話す全員が微笑むのだと。  彼が引き起こした抗争に巻き込まれ、まともには歩けない身体になった少女はそれでも、少年に出会わなければ良かったとは思わないと断言したそうだ。  「あんな人はおらん」  彼女は泣いたそうだ。  少年にまた会いたいと。  少年は実に少年らしい正義感で、ヤクザと抗争寸前になった。  引かない少年達は、ヤクザ相手にかなり頑張ったが、やはり最後は悲惨な終わり方をした。  何人かは死に、少年も死にかけた。  そして、少年は姿を消した。  終わりにするためには自分が消える必要があったのだろうと、少年達は理解している。  ただ、悲惨な結果になったにも関わらず、生き残った少年達には少年と過ごした抗争の日々は、輝くような思い出でもあるらしい。  「オレらは、あそこまでやったんや」  うっとりと言う彼らに部下は恐怖を覚えたと言っていた。  「少年の為に戦えたこと、死にかけたことを皆、誇っていた」と。  まるで、マインドコントロールだと。  「背の高いメガネの方は家族と家政婦を殺している。どの時点で二人が出会ったのかは正確には分からないが、彼が家族を殺す前後ではないかと予測している」  成績優秀以外ということ以外はメガネの青年には何の情報もないそうだ。  大人しく、友人もいなかった。  誰の記憶にも残らず、誰の思い出の中にもいなかった。  何度となく、「妹」について相談している姿を教師達は罪悪感を持って覚えていただけだ。  何か伝えたいことがあるのだと思いながら、教師達は踏み込まなかった。  彼の頭のおかしい父親に関わる事だけは避けたかったからだ。  その家の色んな噂は死んだ後から囁かれた。  皆、おかしい家だと思っていて、でも凶悪な父親と関わることが嫌で放置していた、よくある悲惨な家庭の一つだった。  家族全員と家政婦と呼ばれていた女性を殺害し、彼は姿を消した。  何度もメッタ刺しにされた死体が彼の抱える怒りの大きさを現していた。  彼は犯行後、シャワーを浴びて着替える冷静ささえ見せている。  ただ、ひとり絞殺された妹だけは、ベッドに横たえられていた。  布団がかけられていた。  明らかに彼女に大してだけは怒りゆえの犯行ではない事がわかる。   心に傷を負い人を殺した二人の少年は出会った。  そして、始まった。  そして、彼らには力が与えられた。  だから、彼らは始めた。  自分達の為の世界を作ることを。       

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