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潜入3
「無理はせず、何かあれば逃げろ」
スーツは俺に言った。
「わかった」
俺は言った。
俺は明日から潜入することになった。
彼らは街の一角を不法占拠しているらしい。
「・・・『彼』に惹かれるな。『彼』は危険だ」
スーツは言う。
「伝説の不良だから?」
不良の世界にはそんなレジェンドがいる。
大抵、派手な伝説を作り、20までに死ぬ。
全てのブレーキを切ったような、危険で魅力的な男達。
「・・・君を救おうとしてくれるからだ。見返りもなく」
スーツの言葉の意味が分からない。
あの人が舌打ちした。
あの人は言葉の意味がわかったらしい。
「わかんないけど、用心するよ」
俺は言った。
スーツが立ち上がる。
俺も玄関まで送ろうと立ち上がった。
スーツと並ぶ。
「・・・背がのびたな」
スーツが言った。
俺は気づかれて嬉しくなって笑う。
背が伸びた。
従属者になったことで、成長も止まるんじゃないかと思っていたのだけど、身長は伸びていた。
今では少しあの人より高くなった。
「あんたより高くなるかもな」
俺はスーツを見上げる。
「そして、あんたよりデカくなるかもな・・・」
スーツはスーツは背が高くてゴツい。
さすがに、いい身体をしている。
あの人が呆れた顔をしている。
抱くのにあまりゴツいのは、と思っているんだろ。
「・・・なんで、そんなにデカくなりたいんだ?」
スーツが不思議そうに聞く。
「・・・僕を押し倒すためだよ」
あの人がため息まじりで言った。
「・・・それもあるけど、それだけじゃないって!」
俺は言った。
「それはあるのか・・・」
スーツが小さく呟いていた。
スーツには俺があの人を抱きたいのは驚きらしい。
「俺はそりゃあ捕食者には適わないかもしれないけど、でも、もっと強くなれば 、あんたがバラバラになるような真似はさせなくてもよくなるだろ・・・」
俺はこの人が不死身という特性を生かして、敵ごと自分を爆弾で吹き飛ばすのを見た。
俺達は不死身だが痛覚はある。
この人はそれでも、必要ならば自分を切り刻んででもやってのける。
千切れたあの人の身体を泣きながら集め、俺は思った。
ここまでさせたくないと。
この人はどうのこうのいいながら、「正義の味方」であるために、文字通り手段を選ばないでいてくれるのだ。
残酷で卑怯で卑劣でも。
「人間の為に捕食者を絶対に狩る」
でも、この人はただ、その一点はどうやってでも守る。
それは、俺の為だなどとおもっているのは俺の自惚れかもしれない。
俺の為に正義の味方でいてく ているなんて思うのは。
「俺が強ければ、もうあそこまであんたに無茶はさせないだろ・・・」
俺は強くならなければ。
あの人にもうあそこまでさせないために。
だから、デカく強くなりたい。
スーツがポンと俺の頭を撫でた。
珍しい。
あの人が怒るから俺には触れないのに。
「・・・お前はいい子だな」
スーツが笑った。
珍しい。
笑うと平凡過ぎる顔は意外にも魅力的になった。
こんな顔も出来るのかと思った。
でも、あの人が俺に触ったら怒るのでは、と慌てて振り返ったら、あの人はうつむいたまま動かない。
怒っているのかと心配した。
「良かったな、熱烈な告白をしてもらって」
告白・・・なんのことだろう。
スーツはあの人に声をかけると、俺に見送りはいいと出て行った。
「・・・明日迎えにくる」
そう言って。
スーツだけは鍵もないのにかってに入って来て、勝手にこの家を出て行く。
あの人は何回も鍵を取り替えたり、内鍵も取り付けたが、意味がないのであきらめたらしい。
俺はあの人の隣に恐る恐る行った。
「あんた、どうしたんだ・・・」
うつむいた顔を覗き込もうとした。
「お前な・・・」
あの人が呻く。
こちらを見上げる顔が真っ赤なのがわかった。
ええ。
どうして。
「人前でセックスは出来ないくせに、ああいうことは人前で言えちゃうわけ?、お前・・・」
あの人は俺を抱きしめた。
俺、何か言った?
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