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潜入8
「・・・なんや、なんかに捕まっとるような顔しとるなぁ」
金髪のその人の声は優しかった。
笑顔も優しかった。
俺の顔に触れた指も優しかった。
俺は、魂が抜かれるってのを経験した。
この人は・・・危険だ。
俺の魂に直線触ってくる。
それが、とても心地よい。
まなざしの優しさに溶かされる気がした。
「・・・随分、長いこと頑張ってきたんやないか・・・もう頑張らんでもええで」
スゴく疲れていた自分に気付いた。
人を殺すのを見ることも。
それに協力することも。
納得いかないまま抱かれることも、それが気持ちいいことも。
ただただ疾走するような毎日に振り回されることにも。
「・・・行くとこないなら、好きなだけおり」
その、優しい人は言った。
そして、クスリと笑った。
優しいけれど平凡な顔立ちなのに、その笑顔には壮絶な色気があって 、俺は勃ちそうになった。
「・・・自分、抱く方か?、抱かれる方か?・・・大丈夫やで?ここではゲイでも誰にも何にも言われへん」
俺、そんなにゲイなのただ漏らしにしてるのか・・・。
あの人と毎日してるからか?
ちょっとショック。
「ああ、ちゃうで。そこはオレもゲイやからな、わかるだけや。でも自分どっちか分からんな。入れる方か入れられる方か。どっちもイけるんか?」
ええ、不本意ながら。
処女じゃないけど、童貞ですけど。
でも俺は曖昧に笑ってごまかした。
「・・・ちゃんと同意があるんやったら、誰と、してもええで、ここでは。でも、同意がないのにするんだけは絶対あかん」
あの人はここの数少ないルールを教えてくれた。
同意がないことをするな。
嘲笑するな。
盗むな。
それくらいだった。
「・・・殺すなはないんですね」
俺は言った。
「・・・それ言うたらおられんなるヤツが増えるからな。自分は殺したことないんか?」
そういわれる。
俺は思い出す。
ヤクザをバットで殴り殺したことを。
「一人」
答えた。
「じゃあそのこと責められたないやろ」
その人は微笑んだ。
「・・・自分可愛いから、もし、抱くほうやったら色々教えたりたいけどな、オレとコイツとだけとはセックスするは禁止や」
ため息をついて、その人は言った。
「コイツ」とあの人が呼んだ男。
ずっと黙って、影のようにその人に従う若い男。
資料では俺より少し年上で、この人と同じ年だとあるけれど、もっと年上に見えた。
メガネはもうしていない。
無表情で、冷たく整った顔は作り物のようだった。
「オレら以外とは好きにしてもいいで。若いからしたいやろ 。16やって?オレなんてその年にはビッチで有名やったで 。ここの連中は病気の心配もないし、でも一応ゴムもたくさんあるから、使いたかったら使いや」
ニヤニヤあの人は笑った。
俺は困る。
いや、他の人としたらこの世で一番恐ろしい男に殺されます。
それでも、ゲイでも受け入れられている場所にはホッとした。
「ここにいるために俺は何をすればいいんですか?」
俺は尋ねた。
「・・・好きにしたらええ。ここには外みたいに色んなもんはないけど、何かせぇ言われることもない。案内頼んだるから、案内してもらい」
あの人は立ち上がった。
俺達は解体途中で放置されたような建物の一室にいた。
部屋は綺麗にされていた。
どこかから持ち込まれたテーブルと椅子もあり、俺達はそこで話をしていた。
ここが会議室みたいなものなのだろう。
それか、王の謁見室。
金髪に派手なシャツを着た、優しい笑顔のこの小さな国の王様は、それでも確かに王だった。
小柄ではあってもしなやかな身体。
優しい光をたたえていても、全てを見抜くような目。
俺はこんな人に会ったことはなかった。
「・・・また話しよ 。ほんならな」
柔らかく言われ、髪を撫でられた。
嫌じゃなかった。
触れられるのが。
ヤバい。
そう思った。
惹かれてしまう。
こんなに優しくされたことがなかったから。
ただ、受け入れられたこともなかったから。
陸上選手の頃は結果を求められた。
グレてた時は同性に惹かれる自分を隠し続けなけば友人達とはいられなかった。
今だって俺を抱くあの人にだって差し出す身体を求められた。
この人は何も求めない。
「来たよ~!」
女の子が元気よく入ってきた。
「よう来てくれた。案内したってくれる?」
その人は女の子に言った。
女の子は頷いた。
「いいよ!」
そして女の子は僕に手を差し伸べた。
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