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潜入9

 案内をしてくれた女の子は同い年ぐらいだった。  とにかく明るい。  「君かっこいいね、あたしとしない?」  いきなり言われて戸惑った。  するって、あれたよなあれ。  「俺は、俺はゲイだから・・・」  慌てて言った。  「ふうん、残念」  大して気にしていない様子で言った。  「リーダーもゲイだし。いい男はみんなゲイなのかと思うよ」  ため息をつきながら、少女は俺の手を引き、階段を上がっていく。  「あの、その、ここはみんな・・・」  ちょっと不安になった。  乱交のパーティーナイトは困る。  本気で困る。  あの人に殺される。   「安心して。みんな大抵パートナー作って落ち着いてるよ。私はいないから、君をさそってみただけ。それとも乱交パーティーに出席したかった?」  女の子と握る手は不愉快ではなかった。  妹やお姉さんと手をつなぐと、こんな気がするんだろうか。  人と手を繋いだのは随分久しぶりだ。    子供の頃以来だ。  「興味がないと言わないけど、困る」  俺は正直に言った。  「・・・外に好きな人がいるの?」  女の子は笑って言った。  「うん。・・・ガキだって言われてるけど。好きだって言ってもらえないけど」  俺は何故かこの女の子に嘘はつきたくなかった。  奇妙な親近感があった。  「ちゃんと好きな人がいるの、いいね。その人も連れてきたらいい」  女の子は笑った。  女の子が連れてきてくれたのは屋上だった。  階段の行き止まりのドアを開ければ、フェンスも何もない建物の上につく。  風が吹く。  「ここが見張り台になります!」  女の子が俺の手と繋いでいない方の手を広げた。  数名の少年達が、笑いながら双眼鏡で四方を確認していた。  この廃ビルは少年達が占拠したこの地区では一番高い建物だった。  なる程、見張りには最適だ。  俺は少年達が持っているものに驚いた。  ライフル銃だった。  武装もしているのか。  「ソイツ、オレが見つけたヤツだろ?」  一人の少年が言った。  「そう」  女の子は笑う。  オレはこの地区に入る前から狙撃の射程内にいたことを知る。  いつでも俺を撃てたんだ。  彼らは浜に建てられた古い団地を占拠していた。  立て直しのために、住人がいなくなり 、もうすぐ取り壊すことになっていた場所の一角だった。  彼らは廃材などを積み上げ、バリケードをつくった。  そんな不法占拠は許されることはなく、機動隊が投入され、それで終わると思った。  突入した警官達全員死亡した。  突入した全員、3人ずつ串刺しにされ、バリケード前に並べられた。  その死体の一部には不可解な点があり、捕食者が関わっていると結論づけられた。  そして、その地区はアンタッチャブルとなった。  捕食者は捕食者しか殺せないからだ。  ただ、誰が捕食者なのかは分からなかった。  おそらくと思われるリーダー格の二名が候補にはなっているが、もしかしたら他にいる可能性もあった。  そこにいるのは20までの若者がほとんどで、ホームレスだったと思われる年配者もいた。  彼らは最初は15人ほどでその地区で生活し始めた。  彼らは少しずつ増えていった。  彼らが連れてきたのか、それとも自らそこに行ったのか。  行き場のない者達が集まり始めた。  今は30人ほどになっているとおもわれる。  そこまでがスーツから聞いた話だ。  「捕食者が人間と共存?・・・有り得ない」  あの人が言った。  捕食者は人間を殺す。  絶対に殺す。  その捕食者を人間は受け入れられない。  「でも、事実だ。誰が捕食者は特定出来ていないが能力の一部はわかっている」  スーツは言った。  俺達に写真を見せた。  貫かれ殺されている機動隊員。  「・・・これは」  俺は驚いた。  貫いているのは木の枝だ。  でも、その枝は串刺しの一番下になっている男の腕なのだ。  男は半ば木に変えられていた。  葉や枝が人間の顔や胴体から伸びていた。  木と人間の融合物、そんなものになっていた。  そして、完全に木の枝になった腕に、仲間二人を刺していた。   「人間の身体を木に変えることができるらしい。『改変』と我々は名付けた」  スーツは言った。  「『名付けた』、じゃない。この能力がどう発動するのかが分からないとやりようがない」  あの人は不機嫌そうに言った。  「だから彼に潜入してもらう」  そうスーツは言ったのだ。  

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