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潜入10
「いくつ?」
少年達に親しげに話しかけられた。
同年代の人間と話すのは久しぶりだ。
というより、あの人以外と話すのは久しぶりで。
あの人以外で話すのスーツくらいだし。訓練中にスーツの仲間と少し話す位だ。
ちょっと緊張する。
「もうすぐ17」
俺は答えた。
「見えないなぁ、大人っぽい、オレは18、そっちは15、コイツ等二人は20」
少年は教えてくれた。
皆笑顔だ。
でも、寒くないのだろうか。
屋上に連れてきてくれた女の子にしろ、この少年達にしろ、金髪のあの人や男にしろ、みんなこの季節にシャツ一枚だ。
俺はパーカーのチャックをあげた。
もうそろそろ夕方は冷える。
「ああ、寒いのね、中に入ろ。他も案内するし」
女の子が言った。
手を引かれる。
「また後でな、新入り!」
話しかけてくれた少年が手を振った。
俺もおずおずと手を振り返す。
なんか、久しぶりだ。こういうの。
学校に行っていた時みたいだ。
なんか、嬉しい。
女の子に手を引かれて階段を降りながら俺は思った。
受け入れられている感じがした。
いてもいいんだと思える感じがした。
それが、嬉しいとか思ってしまった。
女の子は案内してくれた。
彼らは団地の中の部屋にそれぞれ勝手に暮らしているようだった。
テレビもない。
電気もない。
水道はあった。
水道管を破壊すれば近隣の地区にも影響があるので出来ないのだろう。
どうやって生活してるのかと思ったら、ものすごくと原始的だった。
「お風呂は交代で沸かすの」
女の子が笑った。
まさかのドラム缶風呂だった。
廃材を燃やしてた。
「女の子も・・・?」
俺は恐る恐る聞いた。
「入るわよ。もちろん。ゲイなのに見たいの?」
ケラケラ女の子は笑った。
若者達が手で洗濯していた。
笑い合いながら団地の公園跡に干していた。
「・・・ひどく原始的なんだね」
俺は言った。
都会の中のキャンプ場みたいだ。
でも、楽しそうだった。
「どうしても必要な物は外に取りに行くけどね ・・・生活に必要なことをしているけど、もう、何かのための何かをしなくてもいいの」
女の子が言った。
「電気もないし、楽ではないけど、あたしはここが好き。誰が出来ていて、誰が出来てないとか、そういうのもうないから」
女の子の言うことは分かった気がする。
俺は選手だった頃は人より優れていることを求められた。
選手としてダメになったら、それに代わるものを求められた。
常に前進しろ、常に良くなれ、誰かに比べてどうであれ。
それに上手く乗れている時はもてはやされ、滑り落ちたら落伍者になる。
それが生存競争なのだと。
本当に?
本当に?
本当に生存競争なのか?
本当に生存競争なら生きているだけでもう十分勝利しているはずじゃないか。
その競争の先にあるのは本当に何なのかも分からず、言われるがままに踊り続ける。
だから俺は踊るのをやめた。
多分、ここなら生きていることに一生懸命なだけでいい。
「特に役割を決めているわけじゃないんだけどね、得意なとこは皆率先してやってくれるし、じいちゃん達は電気やガスがなくても生きていく方法とか教えてくれるし。ドラム缶風呂もじいちゃん達が教えてくれたの」
老人達はのんびり座って煙草を吸っていた。
彼らはここでは生きた知識だ。
敬意を持って扱われている。
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