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潜入11

 老人達はひどく元気そうに見えた。  肌のつやもよく、歩き方もしっかりしている。  ここは老人達にとっては素晴らしいところなのだろうか。  楽ではないと思うのに。  老人達もひどく薄着でここで寒さを感じているのは俺だけのようだった。  銃声がした。  俺は思わず伏せた。  「・・・大丈夫よ、練習しているの。長老が教えているのよ」  女の子が笑った。  「教えている?」  俺は少年達の銃を思い出した。  誰かが彼らに撃ち方を教えているのだ。  女の子が前方を指差した。  一人の老人が公園跡の広場で少年と少女に銃を持たせ、撃ち方を教えていた。  老人は俺を見ていた。  鋭い視線だった。  老人が俺を手招きした。  俺は女の子を見た。  「呼んでるわ、行きましょ」  俺は女の子に引きずられるように連れていかれる。  ずっと手をつないでいるのは嫌じゃなかった。  子供の頃に戻ったみたいで。  あの人とも手をつないで歩きたいと思ってしまった。  絶対してくれないけど。   人前でセックスはできるくせに。  老人はずっと厳しい目で俺を見つめていた。  近づくといきなり銃を渡された。    リボルバーだ。  「撃ってみろ」  老人は前方の空き缶を指差した。  「撃てるんだろ・・・銃声を聴いた瞬間伏せるのは訓練を受けたものだけだ」  老人の言葉に俺は観念した。  下手な嘘は無駄だ。    女の子の手を放す。  銃の感触にはもう随分慣れた。  俺は銃を点検確認し、構え撃った。  空き缶に命中した。  「・・・正規の訓練じゃねぇな。クセがありすぎる。裏の稼業か」  あの人に撃ち方はならった。  「恋人に習った」  俺は正直に言う。  「・・・だな。お前は裏の稼業にしちゃ、スレてねぇ」  老人は納得した。    「坊主がここに入れてもいいと言った以上は 、オレにも異論はない。でも、ガキ、ここで悪さするならオレが許さねぇよ」  老人は言った。  俺は冷や汗をかいていた。  この爺さん、ヤバい。  俺のあの人と同じ匂いがする。  沢山人を殺した人間の。  「・・・あんたも始末屋?」  俺は思わず聞いた。    「いいや、オレは正々堂々と沢山殺したんだ。誰にも咎められずにな」  ニヤリと爺さんは笑った。  「・・・?」  不思議そうな俺に爺さんは言った。  「・・・前の戦争でな。俺は100はこえてる。戦争はいい殺しても誰も咎めねぇ」  老人はそんな年齢には見えなかった。    せいぜい70代だ。  「・・・お前の恋人とやらも、戦争があれば裏の稼業じゃなくて、英雄だったかもしれねぇよ・・・」  爺さんは笑った。  いや、今は正義の味方ですとは言えず、俺は呆然と老人を見つめた。  確かに戦争はあの人のような人を英雄にしただろう。  今でも、殺す人間さえ選べば正義の味方なのだし。  あの人は沢山殺しただろう。  沢山沢山。  全ての知力も使って、沢山沢山殺しただろう。  「正義の味方は殺した後始末や隠蔽をしなくていい」とあの人は喜んでいるが、戦争なら、殺すことを週一度で我慢する必要すらない。  毎日毎日殺せる。  そうか、あの人は時 と場所さえ間違えなければ英雄だったのか。   俺はぼんやりと考えていた。  老人は俺の手から銃を取り上げ、俺が撃ち抜いた缶を撃った。  缶は撃たれて宙へ跳ねた。  それをまた撃つ。  地面に着く前に撃つ。   リボルバーに残っていた五発の弾は、地面に缶が着くまでに全て缶に命中していた。  すごい。  「動かない物なんて、誰でも撃てる」  老人は当たり前のように言った。  いや、俺には無理です。   あの人なら出来そうだけど。   老人はもういいと言ったように、俺に手を振った。  

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