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潜入12

 「行こ」  女の子に連れられて、また歩き出す。  老人は何もなかったかのように再び、少年と少女に撃ち方を教えはじめる。  「銃なんてどこから手にいれたんだ」  俺は別に聞き出す意図はなく呟いた。  捕食者の力があれば別に武器なんかいらないと思うのだが。  いや、このコミュニティー全員を守るためには武装は必要なのか。  「外から。リーダー達が取ってくるの」  女の子は言った。  どうやって、どこからとってくるのだろう。  木になっているわけでもあるまいし。  それに必要な物は外からとってくるって 、そんなお金はどこから。  色々不思議だった。  ただ、あの老人のことは気になった。  若すぎる。  あんな100才はいない。  でも、捕食者だとしたら?  不死身になればあれくらい若返るのかもしれない。  でもそうなると従属者は捕食者とセックスした人間だと言うわけで、金髪か青年のどちらかがあの老人とシたことに・・・?  いや、それはいくらなんでも。  広すぎるだろ、守備範囲。   にしても、あの老人はあきらかにヤバかった。  おそらく老人は俺を殺すくらいのことはやれる。  それは人間の肉体のレベルをこえてる。  ここはおかしい。  寒さを感じない人達、元気過ぎる老人達。  ・・・何かがある。    全員に引き合わされた。  若者が40人近く、老人は10人くらいか。  皆健康だが、何人かはあまりうごかず、じっと座ったまま宙を見ているものもいた。  そんな少女の一人の髪を、違う少女がブラシでとかしてやっていた。  とても優しく。  「ここに来ても、心がなかなか動かない子もいるの。・・・怖い目にあいすぎて。でも、いつか動くようになる。ここではもう心が殺されないのがいつかわかるから」  女の子が教えてくれた。    「あたしもね、ずっと閉じ込められてた。学校にも行くのをやめさせられた。・・・鎖でつながれ、殴られ、酷いことされてた。後どれくらいこれが続くのかつらかった 。神様にお願いした。この人達を殺して。それか、あたしを助けてって」  女の子はさらりと言った。  ・・・俺は驚く。  こんな明るい女の子が。  「そしたら神様じゃなくて、リーダー達がね、現れて、あの人達を殺して、あたしを助けてくれたの」  女の子は恋しい人の話をするかのように言う。  「家から逃げ出して、違う連中に捕まって、身体を売らされていた子もいる。リーダーはそいつらも殺してくれたし」  女の子は一人のにこにこしながら荷物を運ぶ青年に目をやった。    バリケードの補修だろうか。  大量の廃材を運んでいる。  あれ、100キロはこえてるだろ。  「彼は字が書けないの。読めないし。人の指示が一度では理解出来ないし。外では『足りない』と言われて出来ないことを責められ続けたの。空き缶を拾って生計を立ててた。バカにされ、笑われるし、お金はないし 。ある日、バカにされ、笑われ、暴力を振るわれたから、相手を殺してしまったのねとうとう」  運んだ廃材をバリケードに詰め込む。老人に誉められ、青年はにこにこ笑う。  「リーダーが逃げてた彼を拾ってきたの。ここでは誰にもバカにされないし、彼はあたし達を助けてくれる」  死にかけていたホームレス。  両親に全てを管理されて、縛られていた優等生。  ただ、彼らは思った。  「助けて」   そして、あの人が現れたのだ。  誰も助けを差し伸べなかった彼らに、あの人は手を差し伸べた。  必要なら誰かを殺し、あの人は彼らを助けたのだ。  ここに自らやって来たものもいた。  惹きつけられるように。    あの人は手を差し伸べる。  彼らは初めて、手を差し伸べられる。  そしてその手をとったなら、もう離れられない。

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