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記憶4

 「その財布、オレにわたせや、なぁ?」  あいつは優しい笑顔で言った。  少年は大人しく財布を渡した。  渡すだろう。  仲間は全員うずくまったまま立たないのだから。 あいつがのしたのだ。  「安心せぇ、ローキックや。死にゃせん、しばらくまともに歩かれへんけどな」  あいつはにこにこ笑った。  ボクも見ていたのに信じられなかった。  瞬く間に、あいつは4人の人間を地面にへたり込ませたのだった。     一発ずつ脚の付け根あたりを蹴るだけて良かった。   全員リーダー格以外、路地裏にぺたりと座りこんでいる。  あいつは財布を受け取ると入っていた札を半分抜いて、立ち尽くしているリーダー格の少年に渡した。   「半分はとっとき」  それでも5万位はあった。  そしてさらに二万円を抜く。  「オレらの分な」  自分のズボンのポケットに入れた。  そして残りの財布を地面で泣きべそをかいている青年に渡した。  「全部なくなったわけやない、カードも財布も返ってきたんやから良かったな。ええ財布やろ、これ」  にこにこあいつはいった。  「これで全員幸せやな」  いや、そんなわけあらへん。  ボクは思った。  信じられかった。  「・・・それでいいよ、ありがとよ」  リーダー格の少年は頷いた。  「ありがとう・・・」  財布を抱きしめて、いかにも金持ちそうな青年は言った。  なんでお礼やねん。  しかも、なんでコイツらうっとりアイツを見てんねん。  「ええって・・・兄さん、このあたり歩く時は今度からは調子にのるんやないで・・・そらむかつかれるからな。そんな服やら時計見せつけたらしゃあないわ」  あいつの言葉にリーダーはうんうん頷き、神妙に青年も頷いている。   いや、どちらが悪いかは明白やろ。  なんで被害者に説教してんねん。  「立ちや」  あいつは青年を助け起こしてやる。  青年がソイツを憧れるような目で見てるのがムカつく。  「ほな、行き」  あいつは笑った。  その場の全員が溶かされるような笑顔だった。  青年は何度も頭を下げながら去っていった。  「ほな、オレらも行くわ」  あいつが言った。  ボクもそこを立ち去ろうとするあいつにならう。  「・・・あんた、名前は?」  リーダー格の少年は言った。  「    」  あいつは笑って名乗った。  「関西から来たんや、また会ったらよろしくな」  多分、また会う。  そして、この少年達も、あいつのものになる。  ボクにはもう分かっていた。

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