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記憶5

 コイツに拾われて数ヶ月になる。  コイツは逃亡生活が板についていた。   「ヤクザ相手にもめてな、何人か殺してもうた。・・・首都に行こうや」  旅行にでも行くような気軽さで言われた。  ボクはついて行くしかなかった。  他にどうしようとも思わなかった。  そうやって、この街に来た。  コイツはなんでも良く知っていて、簡易宿泊所と言う安く寝泊まりできるところや、理由も聞かずに雇ってくれるところを見つけ出してきた。    建設現場でソイツと働いた。  肉体労働は正直つらかったけれど、ソイツと働くのは楽しかった。    ソイツの周りでは皆が笑った。  冗談ばかり言って、皆を笑わせた。  皆がしんどい時ほど、ソイツが冗談を言うのがボクには分かった。    ソイツのいる現場は自然と仕事がはかどった。  なぜか、皆が助け合ったからだ。  現場のオッサン達はボクに親切にしてくれた。  多分、ソイツと一緒にいたから。  働いて、飯を食う。  それだけの毎日だったけれど悪くなかった。    家で怯えながら暮らしていたことを考えれば天国だった。  妹がいたら、と思った。   一緒に逃げていたら。  と思った。  でも無理だ。  ボクが殺したから。  夜はソイツと寝た。   「なぁ、ええやろ・・・」  切なく囁かれ、伸ばされる指を拒めなかった。   暖かな身体を きしめずにはいられなかった。  キスされたら、唇を貪らずにはいられなかった。  暗い部屋で。  薄い布団の上で。  抱き合うように寝ていると、アイツがボクを見る。  優しい目が淫らに誘う。    「なぁ、あかん?」  指がボクの下着の中に入ってくる。  淫らな指遣い。  思わず息があがる。  「オレのもさわってや・・・」  そう言われたなら、もう立ち上がっている、ソイツのソレに手を伸ばしてしまう。   いけないと思いながら、夢中でそれを扱いてしまう。  「まだ、セックス・・・嫌いか?」     ソイツが優しく聞く。   「・・・怖いんや」  ボクは素直に言う。  コイツには嘘はつかない。つけない。  出会った日から何度も肌はあわせているけれど、最後までしたのはあの日だけだ。  手や口で出し合う。  それでもボクは怖い。  「・・・セックスなんて、気持ちええだけやで」  ソイツにため息をつかれ、ボクは焦る。  「・・・あんたは最後までしたいんやろ、ごめん・・・ボクやとあかんな」  なんでボクと一緒にいてくれるのかもわからない。  コイツが望めば誰だってコイツを抱くだろう。  男に興味のない者だって。  優しい顔が淫らに変わるその瞬間は、逆らえないほどの磁力があった。  「お前がええんや」     やけにハッキリ とコイツは言った。    笑顔が消えて、真剣な目をしていた。  「・・・それに、お前ものすごく良かったしな。オレ、抱き潰されたん、初めてやったわ。はよ出来るようになってな、また、入れてや」  柔らかくいやらしく微笑まれた。  ボクはコイツに触れたい。  夢中でコイツのものを扱く。  本当はこれを口に入れてしまいたい。  味わいたい。  舐めたい。  シャツをまくって、淡く色づいた乳首の弾力を唇であじわいたい。   でも、そう思うと罪悪感に耐えられなくなる。  苦しい。  コイツが抱きたい。  でも、ダメだ。     セックスは罪悪だ。  泣き叫ぶ妹が見える。  セックス が大好きだった父親が見える。     娘を犯すほど好きだった父親が。  なんて汚い。  この人を抱きたい。  でも、出来ない。  お互いに擦り合い出し合うのが、キスするのが、精一杯だった。   でも、それだけでも、コイツに触れたかった。  それでも、ボクからは出来なくて、キスするために唇を与えられるのを待っていた。    

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