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記憶7

 コイツは人を集める。  はぐれたガキ達がコイツの周りに集まり始めたのは仕方ないと思う。  優しい笑顔とは裏腹に、必要ならば容赦のない暴力。  そうかと思えば、絆されてしまうような優しさ。  魅力と恐怖。  コイツは人が何に従うのかを知っていた。  金属バットでフルスイングで頭をかち割る。  優しい笑顔のままで。  ぐしゃっ  鈍い音と、潰れたピンクの肉片が飛び散る。  バットはベッタリと血に汚れる。  「・・・ああ、言うの忘れとった、お前ら殺すわ、全員な」  振り切った後にソイツは言った。  彼女が攫われたと、泣きながら言って来た奴のために、その彼女を取り返しにいった時のことだ。  彼女は連中にやられてた。  その最中だった。  アイツは怒った。  笑っていたが怒っていた。  全員が頭を叩き割られた。  何人生き残ったかは知らない。  生き残っていたかも知れないが、ボクと彼氏で片付けたから結果的には死んだだろう。  浮かび上がらないようにコンクリートの靴を履かせて、海に沈めた。  海は偉大だ。   ああいう奴らでも受け入れてくれるだろう。  「すまんな・・・」  死体の始末をしているボクにソイツは謝った。  始末をさせてしまっていることに謝っているのであって、殺してしまったことにじゃないことは明白だった。  「・・・もうこわがらんでええ 。全員消したったからな」  助けに行った女の子をソイツは優しく抱きしめた。  「・・・ありがとう。ありがとう・・・」  女の子は泣いた。  「誰かコイツら殺してって思ってた・・・」  ソイツの胸にすがりついて泣く女の子。  嫉妬はしなかった。  そういうのじゃないとわかっていたから。  歯止めのない暴力。  底無しの優しさ。  アイツの中でそれがくるくると周り回転していく。  それは魅力的過ぎて逆らえない。  それが輝き、光を求める蛾のように、人は集まり始める。  未来のない若者達ならなおさら、その光は逆らい難く。  見捨てられた街の、見捨てられた若者達。  ボクやアイツのような逃亡犯ほど明確ではなくても、そこに集まる者達には約束された未来などなかった。  いつかカツアゲされていた男のように高級財布に、大金つめて、高い時計をつけて歩く未来など、彼らには最初からなかった。  「調子に乗って歩いたらあかん」  アイツが被害者である男を叱った理由もわかった。  有り得ない未来を見せつけていたからだ。  そして 、街こそ違えどこんな街で育った父親がボクに勉強を強いた理由も。  大抵の奴は死ぬまでここから出れない。  大金を手に入れるには犯罪者になるのが一番の近道な街。  だからこそ、どこまでスリルを楽しめるかのようなゲームに若者達は 熱中する。  一瞬の快楽に命をかける。  その時だけは、未来など必要ないからだ。  焼け付くような今だけが全て。  ボクはそれでも楽しかった。  家にいた時は、今も過去も未来もツライだけだったからだ。  集団同士の覇権争いは 、若者達のゲームの中でも特別なものだった。  意外なことに、アイツはそれを嫌がらなかった。  そのゲームに参加しはじめた。  「仲間がふえるはええこっちゃ」  にこにこ笑った。  「なあ、この街オレらのもんにしよか」  例え若者達の間だけの縄張りだったとしても、そんなものが意味がないとしても。  それでも、若者達は自ら作った境界線に縛られていた。  「境界線をとっぱらって。オレらは好きなところへ行けてええんや。オレらがオレらの中でさらに境界線作ってどうすんねん。オレがこの街全部オレのもんにして、解放する」   ソイツは微笑んだ。  抗争が始まった。  狂信的な信者達を従えて、アイツはゲームに参加する。  圧倒的な暴力、カリスマ。  それらはゲームを有効的にすすめる能力だった。  もっとも、アイツのやり方はストレートすぎた。         

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