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記憶14

 ガレージの車からガソリンを抜いた。   ガレージにあったホースを使って、口で少し吸い込めば高低差を利用してガソリンはバケツにはいっていく。  それを部屋に撒く。  死体の上にはさらに念入りに。  「・・・えらいことになるで」  ボクは言った。  「ええで」  アイツは笑った。  「とことんやろうや。どうせオレらに先なんかあらへん。ほんなら、やれるとこまでやろうや、おもろいやろ」  アイツは笑った。    「・・・そして、みんなで死ぬんか」  ボクは呟く。    「そうや、邪魔するもんは、燃やして、殺して、潰すんや。それで死ぬんやったらみんなで死のう」  無邪気にアイツは笑う。  火を投げた。  ボクらは建物を出た。   火は瞬く間に、建物の中に満ちていく。  ボクは面白いと思ってしまった。  全部燃えればいいと思ってしまった。  それはアイツがつけた火で、ボクの中でもそれが燃え広がっていた。  燃えて燃えて燃えて。  全部全部全部。  父親を燃やせば良かった。  ボク達を見捨てた世界を燃やせば良かった。  ボク達はしばらく燃えるそれを見ていた。     「そやな、とことんやろうか」   ボクは笑った。   「やろうや」  アイツも笑った。  「はよ家戻ってシャワー浴びたいわ。尻からザーメン出てきたで。お前どんだけだすねん」  アイツに言われて赤面する。  「・・・なんなら、もう一回しよや」  誘われた。  「・・・ええで」  ボクはアイツにキスをする。  もう、怖くなかった。  ボクはもう、コイツを欲しがることを怖がらない。  ボクはコイツのモノだ。  「・・・好きやで」  アイツが囁く。  ボク達は歩き出す。    でも、でも。  わかっているけれど。  ボクだけのあんたにしてしまいたい。  その願いは、胸の奥にしまっておこう。  「ボクも好きや」  ボクはぶっきらぼうに言った。  アイツが弾けるように笑った。 ボクたちは。 幸せだった。

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