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潜入18
「捕食者」
俺は言った。
男はじっと俺を見つめる。
「それは、なんや?」
静かに尋ねられる。
自分が何になったのかを知りたいと思うのは当然だ。
いきなりの不死。
そして、どちらが捕食者であるのかは分からないけれど、おさえられない殺人衝動。
「俺だって良く分からない。でも、ある日この世界のあちこちで人間が変化したんだ。化け物に。そして、人間を殺すようになった。この国ではそいつらの事を『捕食者』と呼んでいる。捕食者は死なない不死身だ」
俺は説明する。
「そして、『捕食者』とセックスをして生き延びた者を 『従属者』と呼ぶ。捕食者は従属者を操ることもできる。そして、『従属者』は首を切り離されれば死ぬ」
そして、続ける。
「俺は従属者だ」
男の表情からは何を考えているのかうががいしれなかった。
無機質な人形のような顔。
「自分の『始末屋の恋人』ってのが捕食者やな。でも・・・分からへんな。何故、国の手伝いなんかしとるんや。せっかく人間やなくなったのに」
不思議そうに言われる。
俺が国の管理下で行動しているのもわかっているのだろう。
「こっちへ来いや。ボクらのもんになれや。捕食者は人間は殺す。でも、人間が人間でなくなれば殺すことはなくなる。ボクらは人間を人間でないモノに変えれる。不死身というわけではあらへんけど、人間より死なへんし、寿命も長い、飲み食いせんでええ、寒さや熱さにもある程度までは対応できる。人間の形態のままやったらセックスも出来るしな。ここでなら、捕食者も人間と共生できる」
この人達は新しい世界を始めようとしているのだ。
植物になった人間達の世界をここから。
「何で突然、人殺してまわるもんがこの世界に出て来たんやろうな。そして、ボクらが人間を植物にかえれるように何でそんな力が与えられたんやろうな 。・・・ボクはな、今、確信したわ」
男は微笑んだ。
「この世界は終わらないとあかんのや。そして、次の世界を始めないとあかんのや。それをはじめる
んがここからや」
男は嬉しそうだった。
心の底からこの世界を終わらせたいと願っていた。
こんなにも世界を憎んでいる人がいることに俺は怯えた。
「別にオレはそんなデカいこと考えてへんで?」
柔らかい声がした。
金髪のあの人だった。
俺の隣に来た。
ニヤリと笑う。
「見とったやろ、勃ったか?」
俺はもう首を振るだけにする。
もう、そのことについて考えるだけても許さない人がいるんで。
「気にせんでええのに。こっちもそっちの見させてもらったから」
にこにこあの人がいう。
えっ。
それ、どういうこと。
「お前の恋人、たいしたタマやで。オレが見てんの知ってて、こんなとこのりこんで、あんだけ好き放題セックスされたら捕まえる気もせんし。ホンマにセックスだけしに来とったしな・・・呆れたわ」
ええ?
「ちなみにここの連中睡眠いらんねん。樹になってしまう奴は眠り続けて樹になるけどな。いや、ひさびさ、皆で双眼鏡の取り合いしたわ~」
ええ?
ええ?
あの異様な静けさは、皆さんで俺達を見てたから?
「何でか女の子らがめっちゃ喜んでな、娯楽やっぱり少ないからな、皆大喜びや」
俺は胸を刺された時より衝撃を受けた。
うずくまる。
見られていたの?
死にたい。
「いや、ひさびさエロいもん見させてもろろたわ・・・いや、彼氏たいしたもんやで、見られてんの分かってあんだけやれる男は少ないでAV男優なれるて。あれは才能やで」
けらけらと男は笑った。
俺は立ち直れない。
「オボコイなぁ、見られた位たいしたことないて。誰でもしてることやねんから、気にすんな、まあ、お互いさまやしな」
多分、これ、俺のあの人に言われたら、また激怒しまうんだろうけど。
顔面に蹴りをまた入れてしまうのだろうけれど。
何故かこの人に言われたら、許せた。
でも恥ずかしい。
ても、俺も見てるわけで。
うずくまる俺の頭を優しい指が撫でた。
「こっちに来いや。オレのもんになり、絶対そっちよりおもろいで」
顔を上げれば優しい目が俺を見ている。
「はい」
そう言ってしまいたくなる自分がいた。
この人といるときっと楽しいだろう。
ここの人達も嫌いじゃない。
あのお爺さんとあの男だけは怖かったけれど、多分俺が仲間になれば違う顔を見せてくれることもなんとなく解っていた。
でも、無理だ。
俺はここにいれる。
でも、あの人は無理だ。
あの人の殺人衝動は「捕食者」だからじゃない。
あの人は元々快楽殺人者だ。
あの人は別に人間じゃなくても殺すだろう。
ここの植物人間達を自分の楽しみのために。
人間じゃなくてもいい。
苦しめ、なぶることさえ出来たら何でもいいのだ。
そんなあの人だから、捕食者になった時の殺人衝動をコントロールできたのだ。
ふつうは暴れまわって殺してまわるのに。
生粋の殺人者には殺人衝動は日常だったのだ。
だから、ここに来たからどうにでもなるものでもない。
捕食者の殺人衝動以前に、人を傷つけ殺したいと言う衝動をあの人は抱えているのだから。
「あなた達は殺したくならないのか?」
人間を。
ここの植物人間達は別にして。
人間を殺す者。
それが捕食者だ。
「・・・聞きにくいことをはっきり聞くなぁ、やっぱり、自分ええわ」
あの人の笑顔は変わらない。
「オレらは殺しとるよ」
あの人はきっぱり言った。
「だけど無闇やたらには殺さんで。自分の相方やって今でも殺してるやろ」
そうだ。
でも、今は悪者限定で殺してる。
「人間を見たら殺したくなるってのはしゃあないよな。そういう生き物になったと聞いたら納得 したわ」
ため息をつく。
「捕食者をここに連れて来たらええ。ここには人間はおらん。ここでなら、捕食者も殺してまわらなくてもいい生き物になれる。ここの仲間とおる時は、殺したいとオレらは思わん。それになんならオレらがその捕食者を樹の身体に変えてやってもいい。そしたら捕食者じゃなくなるで」
捕食者を殺せるのは捕食者。
捕食者の能力は捕食者にも有効。
まさか。
まさか。
捕食者を捕食者で無くす能力を持っている捕食者がいるなんて。
俺はその事実に気付き驚いた。
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