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潜入19
「ここにいれば捕食者は人を殺したくならないのなら、もう、人を殺さなくてもすむようにもできますよね?」
俺は与えられた情報の多さにクラクラしながらも、可能性に気付いていた。
捕食者を無害化できる可能性だ。
彼らの力で植物人間に変えればいいのだ。
捕食者に殺させる以外に捕食者に対して有効な手段。
捕食者を捕食者ではなく、植物人間という、捕食者じゃないものに変える。
俺には何の権限もないけれど、この事実には国の奴らも興味を持つはずだ。
それは彼らと人間の共存の可能性にならないだろうか。
「・・・それは難しいんやないかなぁ」
あの人は笑った。
その時、悲鳴が聞こえた。
俺はその悲鳴が俺達がいた建物の方からしたことに気付く。
「・・・ああ 、難しい理由の一つが来たわ」
あの人は俺に手招きしてついてくるように促す。
俺はあの人についていく。
そして、男も。
樹になってしまった人々だけは、静かにそこに佇んでいた。
「リーダー、あいつら戻って来たよ~」
そこに行く前に迎えが来た。
陽気な声で女の子が言った。
手を繋いだあの子だ。
「そうか、そうか、誰もケガないか?」
抱きついてくる女の子を軽く抱きしめて、あの人は言った。
二人は並んで歩く。
仲の良い兄妹みたいだ。
「撃たれたって、それだけ」
女の子は肩をすくめた。
そして俺に気付く。
ニヤリと笑う。
「あんたの彼氏、めちゃくちゃかっこいいね」
そう言われて思い出す。
そうた、俺は見られたんだ・・・!
真っ赤になる。
「可愛い、赤くなってる」
女の子がからかう。
「止めたれ、からかいな」
あの人。
「ええ、みんなに、今、エロいもん見れるでって言いにきたのリーダーのくせに。」
女の子。
ええ。
俺は恨みがましくあの人を見る。
ついでに、自分達を見たと俺を責め立てたあの男を。
これだけしといて、責めるのは酷い。
「・・・ボクは見てへん。ボクはアイツ以外興味ない」
言い訳がましく男が言う。
「せっかく芸術的にエロいからその美しさを皆で分かち合いたかっただけやねん」
あの人が変な言い訳をする。
もう、いいです、はい。
死にたい。
死ねないけど。
「いいじゃない、合意のセックス見られただけなんだから。大体、あんた達、見えるとこでしてたわけだし。あたしなんか レイプされてその動画ネットに流されたんだから」
女の子が言ったので俺は固まる。
彼女の過去はちょっとは聞いていたけれど、これには何も言えなくなった。
「でも、リーダーが全員殺してくれたし、ソイツらを殺す動画をネットに流して、拡散した何人かも殺したし、ダウンロードした連中も無差別でなん人か殺したから、ヤバいって噂が流れて動画は消えたしね・・・ここ電気ないけど、まだ街にいる仲間もいるの。引きこもりだけど、ずっとパソコンの前にいる、なんか色々すごいの。全然何言っているかわかないけど」
女の子は笑った。
「レイプした奴らは憎いけれど、それを楽しむ奴らはもっと憎いよね」
女の子は何でもないことのように言うけれど、それは恐ろしい話だった。
「・・・愛のあるセックスっていいなぁって思ったの。君、めちゃくちゃ愛されてるよね」
女の子が羨ましそうに笑った。
俺はまた赤くなる。
「・・・殺さないでくれ」
誰かが叫んでいた。
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