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前夜1

 私は言葉を失っていた。  少年からの情報提供は驚くものだったからだ。  どちらが捕食者なのかは分からないままではあったが、能力の一端がわかった。  「改変」  私達が名付けたその捕食者の能力は予想以上だった。  人間を植物に変化させる。  「植物人間」、そう少年の言うところの人間ではないものに。  これで納得はいく。  彼らの一部が街へ出て、人間を拉致していたのはわかっていた。  まあ、拉致される人間が人間で裏稼業だったり、後ろぐらい奴らだったため、捕食者がらみのことであるし、黙殺されていた。  ただ気になったのは、銃撃戦があったはずなのに誰一人怪我をした痕跡もないということだったのだがこれで理解できた。  目撃証言で、目の前で撃たれたはずなのに平然としていたというものもある。 これは植物人間達には銃が効果がないということの証明になるだろう。  銃の効かない植物人間を率いる捕食者。  オマケに第二次大戦で多量殺戮した老兵までいる?  植物人間達は植物人間達で、人間よりはるかに殺戮する能力は高そうだ  頭が痛くなった。  しかし、確かに興味深い。  捕食者を捕食者ではなくならせる能力を持つ捕食者。  これはすごい能力だ。  少年の言う通り、この能力は色んな可能性を秘めている。  だが。  「おい、犬、今回ばかりは僕一人じゃ無理だな、葉っぱ人間達はお前らでやれ」  男は言う。  葉っぱ人間。  「植物人間」といい、この捕食者と従属者にはネーミングセンスはない。  私はため息をつく。  彼らといると出るのはため息ばかりだ。  私は彼らの部屋のダイニングにいた。  少年がコーヒーをいれてくれたので飲む。  育ちがいいのだ。  来客にはきちんとお茶を入れる。  男一人の時にはこういうことはなかった。  彼らは飲み食いの必要はないけれど、人間だった頃の名残でコーヒーくらいは飲むらしい。  「・・・基本、捕食者相手に人員はさけない」  私は男に言う。  人間では死ぬだけなので捕食者相手の時は、その地区全体を灰にする以外では自衛隊も警察も出動しない。  無駄だからだ。  そのために男がいる。  「・・・誰も捕食者相手にしろとは言ってない。葉っぱ人間だけだ。銃は効かないかもしれないが殺せるはずだ」  男はいう。  「待ってくれ、何故殺す前提なんだよ。理性のない捕食者達とは今回は違うし、・・・殺さなくても」  少年が言う。  今回ばかりは私の独断というわけにはいかないだろう。  「植物人間」彼らの存在は、ある意味「捕食者」の存在よりも大きいからだ。  「殺すに決まってるだろ。そいつらは人間を憎んでいて、しかも、人間ではなく、これから先増えて行くんだろ?・・・人間のためを考えるなら今のうちに殺すべきだろ」  男は言い、これはこれで正論なのだ。  別の種が生まれた。  人間と同じ知性を持ち、人間以上の能力を持つ。  彼らは性行為も行うと言う。  もし、彼らが次の世代を作ることが可能なのだとしたら?  突然変異のような捕食者とは違う。  存在自体が脅威だ。  しかも、捕食者達は彼ら相手には殺意を持たないのだ。  人間の代わりに彼らが地上に溢れたら、捕食者は特殊な能力こそ持つが、殺人衝動にとりつかれることはなくなる。  人間とは違い捕食者からも解き放たれた彼らの存在はまるで人類の「次」をあらわしているようではあった。  「滅ぼしておくべきだろ、今のうちに」  男の意見は間違いではないのだ。  ただ、男が人類の味方のような口を利くのは意外だったが。  「あいつらにお前のヤらしいとこ見られたからね、全員殺せば見られたことにはならないだろ」  あいつの言葉にまた人前でやったのか、と私は呆れて絶句し、少年はそんな理由で全員殺すということに絶句した。  この男が殺すのに大した理由などいらないことを、私も少年もすぐ忘れてしまう。  

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