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前夜3

 「・・・渡すわけがない。誰にも」  男の目は冷たかった。  私は思う。    彼らの元に行った方が少年は幸せなのではないだろうか。  この男の執着は「愛」などと呼べるものではないからだ。  いつまでも玄関まで出てこない私に待ちきれなくて、少年は部屋に戻ってきた。  ちゃんと来客を見送りしてくれる位に少年は、育ちがいいのだ。  「どうしたんだ?」  男は私の腕を掴んだ手を放す。  それを少年は見逃さない。  「また何か無理難題を言っていたのか、あんた・・・」  勘違いして、少年が男に怒る。  こんなことが出来るのは、この少年だけだ。  「違う違うコイツがしてくれた忠告を有り難く受け取っただけ」  男は笑う。  まるで普通の青年のように。  「なんて忠告なんだ?」  少年は私に尋ねる。  「君を大事にするように」  私は少し笑って言った。  嘘ではない。  少年は赤くなり、男はさらに赤くなった。   面白い。  この男のこういう顔は初めて見る。  「・・・」  少年は何も言わないで私の背を押し、玄関のドアまで連れて行った。  色んな照れ方があるものだ。  私がいなくなって二人きりになったらあの二人どうするつもりだろう。  彼らの性生活が奔放なのは、部下達からの報告でも良く知っているし、男の暴走ぶりも前から知っている。  なのにまるで付き合う前の二人のような反応だった。  面白いと思わずにはいられなかった。  彼らの部屋を後にしながら思う。    「捕食者」には「従属者」が必要なのだ。  それが「従属者」の存在理由の全てなのかもしれない。    

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