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前夜10

 「お前が好きなのは僕の顔と身体とセックスだろ」  あの人はムスッとした顔で言う。  あ、一応自覚はあるんだ。  性格最悪だと言うのは。  「・・・何考えた?」  凄まれる。  自分で言ったくせに。   そして乳首に歯を立てられる。  思わず身体が震える。  ダメだ。  流されたらダメだ。  ここはちゃんと言わないと。  あの人の頬を挟んで 、目と目を合わす。  綺麗な顔だ。  冷笑的で、キツイ顔。  「待って、本当に待って。確かにあんたの顔と身体は最高だし、セックスもいい。・・・それだけで俺があんたのとこにいると思ってるんだったらあんた自惚れ過ぎ」  俺の言葉にあの人の顔が怒りで赤くなる。  でも、言わなきゃ。  「お前・・・立場分かってないな」  あの人の目がつり上がっている。  手足位は切り落とされかねない。  でも、目をそらさない。  怖くないって言ったら嘘になる。  怖い、いつだって。  あんたが、自分も俺も全てを壊していきそうで。  「・・・俺があんたの性格最悪なところに捕まってるからだろ。良いとこだけで捕まえられてるんだったらもう、逃げてる。あんた、いいとこ少ないし、面倒くさいし」  面倒くさいとこが可愛いとか思い始めたらもう終わりだ。    「でも、それでいいと思ってしまってるんだ」  人を殺してるような人間なのに、それでも離れられないと思ってしまったら、もう末期だ。  あんたの最低さを知っててそれでも、あんたがいいと思ってしまったからもう終わりだ。  「あのね、あんたが俺を無理やり側に置いた始まりは確かに気に入らない。最悪の始まり方だよ。でもね、帰してやるって言われてももう俺、帰らないから。手放してやるとか言われたら、本気で怒るよ?でも、あんた絶対そう言うこと言わないよね、言えないよね・・・俺を手放せないんだろ?」   ・・・俺を手放せないくせに。  でも、その理由さえ認められないくせに。  あの人の顔が赤くなる。  可愛い。  「・・・うるさい、お前なんか、お前なんか・・・」  あの人がつぶやく。  「俺がいらない?嫌い?」  俺は尋ねる。  自信がある。  「うるさい」  あの人は俺を抱きしめてごまかした。  可愛いすぎるでしょ。  「・・・今日は外さない。今日だけは」  あの人は手錠した手首に口づけしながら言った。  「・・・いいよ」  俺は頷いた。  結局受け入れてしまうんだ。  どんだけ、思われているのか分かって欲しい。  「・・・好きだ」  言ってもわからないあの人に囁く。  またそんな、泣きそうな顔をする。  本当は抱いて、胸の中で泣かせて安心させてやりたいけど、あんたはまだそれを受け入れられないから。   いいよ。  抱けよ。  あんたに触れられるなら、構わない。  「  」  名前を呼ばれる。  あの人が言えない言葉の代わりなんだってことはとっくに分かってる。  「好きだ」  言い聞かせてやる。  堪えるような声がした。  「  」  俺の名前。  「好き」  俺が繰り返す言葉。  いつもより甘く唇は俺に触れていく。  指も、囁かれる声も、  甘く甘く、俺を溶かしていく。  繋がれた手の痛みを忘れてしまうほどに。  「  」  繰り返される名前。  それが一番、甘く俺をしびれされた。

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