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V,S 2

 アイツは関西訛りの標準語で話し始めた。  「僕」なんてアイツが言ってるのがすごくおかしくて、でも、ギャップにやられそうになった。  だめだ、大事なところだここは。  ボクはにやけそうになる顔を引き締めて、アイツを見つめる。  さて、ネットは突然始まったこの中継を拡散してくれるかな?  テレビ局は政府の管轄下だ。  ボク達が何かを訴えるなら、ネットしかなかった。  「僕達は今、都の  という地区を占拠してます。多分もう何時間かしないうちに、政府によって僕達は攻撃をうけるでしょう」   アイツは訴える。  「・・・僕達はあなた達の世界からいらないと言われた者達です。だから政府がボクたちを消し去りたいのも理解できます。・・ ・ずっと俺らを殺してきたからな。・・・お前らも一緒やで」  言葉が変わっていく。     笑みがきえていく。  笑わない時のアイツの凄みはヤクザ以上で、これはボクの意図するものではなかったけれど、ボクはそのまま続けることにした。  「お前らの世界のことは、お前らの世界や勝手にしろや、どうでもいい。弱いもんは切り捨てたり貪って生きていけ。自分らさえそうならなければ幸せ。それでかまへん、勝手にし。オレはお前らが要らん言うたものを、ひろう。オレらはオレらで勝手にする。だから、オレらに構うな」  アイツが言う。  これでいい。  大事なのは細かい内容じゃない。  一番大事なことは、人知れずボクたちが抹殺されることを避けることだった。  ボクたちがここを占拠していることも政府は隠し続けてきた。  それは、こっそりと殺すという意図があったことは間違いない。   「捕食者」という存在を消してきたと言うのも、秘密裏におこなわれてきたのだろう。  秘密はいい。  消しやすい。  でも、秘密ではなくなったらなら?  動きにくくはなるはずだ。  そしてもう一つ。  やりにくくする方法。  それは賛同者を作ることだ。  「とうせすぐバレるから言うとくけど、オレは人殺しや。ここにいる奴らのほとんどが人殺しや」  アイツが不敵に笑う。  何を言うつもりなのだろうか。  予定とは全く違う。  「オレはガキの頃からオヤジに殴られてたし、ヤられとった。12になった時、やっと殺せると思ってバッドで殴り殺した。何があかんかったか教えてくれや。オレは結構殺しているけど、ソイツらを殺したらあかん理由がわからへん。誰も助けに来うへんかったやないか。オレは助かるために殺したし、助けるために殺したんや。何があかんねん」  平然と言い放つ。  ボクらの素性はすぐわかるだろう。  特にアイツはそれなりに有名人だ。  ボクも家族を惨殺して逃げている身だ。  でも、いい。  それを教えるのはいい。  暴力もまた力だからだ。  無力なボクらの言葉に耳を傾ける者は少ない。  でも、力を持つ者の言葉に従う人間は大勢いる。  それがどんな力であってもだ。  

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