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V.S 24
時間を少し遡る。
「あの人はどこだ」
俺はスーツに詰め寄ったのだった。
スーツはその特長のない平凡な顔に無表情をいつも通り貼り付けていた。
そして黙ってモニターを指差した。
山のような巨大な触手の化け物が、ミイラのようになって枯れていた。
そして、その枯れた枝に四方から身体を貫かれ、絶命しているように見えたのは、あの人だった。
腹から背中まで貫かれていた。
右わき腹から反対側の左わき腹まで貫かれていた。
喉から背中まで、触手の枝は抜けていた。
身体には穴がまだ沢山空いていて、何度となく貫かれていたことはわかった。
あんた、なんでそんな真似してるんだ。
「・・・今、アイツの指示で液体窒素を降下した。この化け物は死んだが、アイツも影響を受けているからまだ回復には時間かかかるだろう」
液体窒素?
どういうことなのかさっぱり俺にはわからなかったが、一つだけわかったことはある。
あんた、また自分をボロボロにしながらなんとかしようとしてるんだな。
そこまでしないと勝てないんだな。
あんたはそこまでするんだな。
たった一人で。
「この触手の化け物は?」
俺はわかっていたが聞いた。
「樹化人間達の集合体だ。彼等は触手のような植物が人間に擬態しているだけだと言ったのは君だ」
あの人達は死んだのか。
あの人が殺した。
やりきれなさがある。
でも、あの人の虚ろに見開かれた目。
貫かれた身体。
不死身だからって、痛みを感じないわけではないんだ。
俺は自分の右手を見る。
手錠を外すため、俺は手の肉を自分の歯で削いだ。
それだけでも、凄まじい苦痛だった。
あの人はそれ以上のことをしている。
何故、そこまでして?
それが一番わからない。
「正義」だとあの人はよく言うけれど、あの人程正義とはかけ離れた人はいない。
でも、あの人はここまでする。
あんたの「正義」ってのは何なんだ。
ここまでする意味は何なんだ。
それより、何より。
俺のいないとこでこんなにボロボロにならないでくれ。
捕食者は捕食者を殺せる。
俺のいないところで死なないでくれ。
俺は泣いていた。
「俺、あの人のとこに行く」
俺はスーツに言った。
「なんであんたも来るんだ?」
俺はスーツに聞いた。
俺たちは下水道にいた。
俺達は下水道からあの場所へ向かうのだ。
「あんたが来る必要はないだろ」
俺はスーツが一緒に来るのが不思議だった。
スーツが現場に出る必要はない。
スーツは責任者だ。
「今回、部下を三人殺した。・・・罪悪感がおさまらなくてな。こんなことをしても許されないが、私も少しくらいは危険な目にあわなければ。私の代わりなど本当はいくらでもいる。・・・誰もやりたがらないだけでな」
スーツは少しだけ笑った。
俺はスーツが部下達に慕われているのを知ってる。
スーツが結構部下思いなのも。
「誰が死んだんだ・・・」
俺は聞いた。
スーツは三人の名前をあげた。
訓練で良く世話になった人達だった。
可愛がってくれた。
あの人の前では絶対に親しそうな素振りは見せなかったけど、あの人のいない俺が参加する訓練では、皆親切にしてくれた。
「・・・そうか」
俺はそう言うしかなかった。
「もう、殺し合うしかないんだな」
俺は呟いた。
「あんたのせいじゃない。そうなってしまったんだろ?あんたは死なせたくなかったんだろ」
俺は思わず言った。
それは結局、殺し合うことを止められなかった自分に言ったのかもしれない。
「いや・・・」
スーツの顔から無表情が剥がれ落ちていた。
「私が私の意志で殺した。それから逃げるつもりはない」
何故、スーツは俺に同情するような目を向ける?
傷ついているのはスーツの方だろ?
「あんたは逃げないんだな・・・尊敬するよ。俺は逃げたい。本当は」
俺は心から言った。
あの人達を殺さない方法はあったんじゃないか?
そのためにもっとできたことがあったんじゃないか?
考える。
逃げたい。
こんなの俺には持ちきれないのに。
「それに結局、色々考えていても。最終的にはあの人がボロボロになるのが嫌で、あの人が死ぬのが嫌なだけになってしまうんだ」
俺は結局、あの人を守るためには・・・あの人達と敵対してしまうんだ。
「あんたは逃げない・・・尊敬するよ」
俺は心から言った。
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