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V.S 26

 そして今。 俺はあの人と戦場にいる。 あの優しい人を殺すために。 あの人が目で合図した。  あの人が飛び出す。  あの人が撃たれる音を合図に走った。  俺は速い。  誰よりも速くなると信じて走っていた頃を思い出す。  多分、今はもっと速い。  速くなければ、あの人を助けられないからだ。  もう、あの人を誰かに撃たせたくないのならば、走れ、俺。  団地の入口につく。  5階建ての古いエレベーターなどない建物だ。  俺は階段を使わない。  ベランダのフェンスに飛びつく。  ここからだと日差しが邪魔して、屋上からは確認しずらい。  屋上のじいさんは階段から俺が来るとおもっているはずだ。  パルクール。  良く動画などで紹介されてる、建物と建物の間を飛んだり、壁を駆け上がったりするアレだ。   ら  訓練の合間にスーツの部下達に教えて貰ったりした。  こんな古い団地のベランダならば簡単に登れる。  跳び、  つかみ、  伸ばし、  蹴り、  掴め。  俺は瞬く間に団地のベランダ沿いに、屋上へと駆け上がっていった。     俺が屋上へ跳んだ時、じいさんは俺に背中を向けていた。  階段に向かって銃を構えていた。  あの人を狙わせないために出来ることを、瞬間で考えた。  答えは一つだった。  俺はじいさんへと屋上のへりからジャンプした。  俺はじいさんには勝てない。  俺は全然強くない。    後2歩ほどのところで着地し、その音にじいさんが振り返った。  「テメェ、飛べるのか!」  じいさんが言った。  突然現れた俺は、飛んできたように見えたのかもしれない。   俺は跳べる。  跳べるんだ。   撃たれる。   頭から弾が抜けるのがわかる。  でも俺はじいさんに抱きついた。  そのまま、屋上から地面へダイブした。     屋上からじゃなきゃ、一方的には狙えないだろ。  これで少しはあの人が戦いやすくなる。   俺はじいさんを抱えたまま、地面に叩きつけられた。

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