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V.S 30

 でも、わかったことはある。   これだけ蹴りを繰り出せるというのはスゴイが、逆を言えばコイツはそっち専門だ。   キックボクシングか、空手か。  つまり、距離を潰して近づかなければいけない。  蹴りが届かない場所にいれば、蹴りを貰わないですむ。  だけどそれでは逃げるだけになる。  もっと近付くんだ。  蹴りが一番体重がのる距離よりも近くに行けば、蹴りの威力は殺される。  この距離よりは圧倒されないはずた。    ただそのためには、一番危ない距離に入らなければならない。  僕は意を決して自分から踏み込んだ。  「はっ、ええ度胸や!」  金髪が笑った。  蹴りがくる。  右手の刀で受ける。  仕込み靴の刃は斬れ、飛んでいく。    僕の右手を変化させた刀は斬れないものなどない。  だから刀で受ければ刃が折れることはわかっていた。   でも、何故受けなかったのかというと・・・。  刃が折られた靴をはいた脚は、刃を折られて僕に届かず空振りした。  だが、そのまま軌道を変えて蹴りが出した方向と反対に戻ってくる。  高いレベルで蹴りを習得しているものならば、蹴りを片足で往復で繰り出せる。  そして、宙で軌道を変えるから、どこをねらってくるか予測ができない。  最初の蹴りを刀で受けれても、戻りの蹴りを、刀で受けれる自信が僕にはなかったからだ。  やはり、金髪の蹴りは戻ってきた。  しかも、今度は踵から刃が出ていた。  踵にも仕込み刃だと?  どんだけ酷いセンスだ!  漫画の読み過ぎだろ、コイツ!  家でガキが喜んで読んでるバトル漫画にこういうのがあったな、など一瞬考えた。  軌道を変えて刃は襲ってきた。  ソイツの仕込み刃は僕の右腕を狙っていたのがわかった。    僅かに身体をそらすことには成功したが、首を半分程切り裂かれた。  血が吹き出す。   首が有り得ない角度に傾く。    肉が裂けたからだ。  でも、僕は前に出て、金髪を捕まえて倒れ込んだ。  首を斬られた位では僕は死なない。   これが武器である右腕を斬られたのなら困ったことになったが、首なら構わない。  僕達捕食者は、首がなくなっても動けるからだ。  「捕まえた!」  僕普通では有り得ない角度にまがった首のまま言った。  金髪の顔に鮮血が降り注ぐ。  やはり、金髪は僕をふりほどけない。  組み付かれた時の対処は蹴りほど得意じゃないようだ。  「押し倒してどうするつもりや」  金髪はそれでも笑った。  ムカつく。  「お前みたいなビッチとはやらないね。公衆便所は使わないんだ」  僕は言ってやる。  確かにヤらしい雰囲気はあるが、コイツは僕の趣味じゃない。  僕の趣味は・・・。  ガキのことが思い浮かんだ。  「ロリペド野郎」  金髪が唇を歪めて笑った。  本当にコイツムカつく。  僕は膝で肩をきめて抑えこんだ。  両腕を切り離してから、銃で頭を撃ち抜くんだ。  それでコイツが捕食者だとしても少なくとも一人、戦力を奪える。  殺すのは最後でもいい。  「命乞いしてみたらどうだ?ビッチ」  僕は囁く。  ああ、時間がないのが残念だ。  コイツは本当に切り刻みたい。  コイツ相手なら楽しめるだろうに。  抱くのはゴメンだが、コイツを刻むの本当に楽しいだろう。  僕はコイツが大嫌いだから。  「それを言わなあかんのはお前の方やな」  金髪が笑った。  何を言っていると思った。  右腕から斬り離そうと刀を振り上げた。   次の瞬間、右腕が切り離されていた。  僕の右腕が。  「はしゃぎすぎて、あんたオレの相方が近づいているのも気付かんかったやろ」  僕の背後には背の高い男が立っていた。  デカいナイフが振り切られていた。  全く気配を感じなかった。  この僕が!  僕の右腕は刀に変えられたまま、転がっていた。  もう一度ナイフが振られた。  僕は飛び退いてよけた。   まずい。  僕の武器である右腕が。  金髪がおきあがり、僕の右腕を拾った。  刀の形状のままだ。  「お前で、お前を斬れるかな」  金髪が笑う。  僕の右腕は切り離されてはいても生きている。   多分、使える武器になる。  どんなものでも斬れる刀。  まさか僕に使われるとは・・・。  僕は逃げるべきなんだが、右腕をどうしても取り返したかった。  この右腕だけが有効な武器だからた。  

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