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記憶 15
セックスは嫌いだった。
欲望が嫌いだった。
「嫌や、嫌や、助けて・・・兄ちゃん!」
妹の記憶は助けを求めて泣き叫ぶ妹の姿ばかりだ。
狂った家の暴君だった父は、ところかまわず妹を犯した。
母もボクも見ないふりをした。
父が怖かった。
幼い頃から、気に入らなければ何度も殴られ、階段から落ちたということにして、何度となく入院させられて。
ボクは逆らう力を失っていた。
父の前では身体の芯から力がぬけた。
思考が停止し、ただ殴られないことを祈った。
父はボクを従わせるため妹さえも利用した。
ボクが言うことをきかなければ、妹にもっと酷いことをすると何度も言った。
ボクが必死で、入院した病院の先生に訴えようとし、でも先生が父の異常さから関わることを逃げ出した時に、そう宣告された。
そして、ボクが退院した日、ボクの目の前で妹を手酷く犯した。
ボクはますます逆らえなくなっていった。
父はボクにも執着していた。
所詮世間の鼻つまみ者でしかない自分が得られないものを、ボクに自分の代わりに手に入れさせようとした。
社会的に強い立場、いわゆるエリートにしたかったのだ。
ボクは優秀な成績を取ることだけを要求された。
一番でなければ許されなかった。
父はとにかく、セックスが大好きだった。
娘を犯すほど。
家政婦という奴隷も犯した。
母も犯した。
男がイケたならボクだって犯されただろう。
代わりにボクは殴られた。
セックスも暴力も同じモノだった。
気持ち良くなるために、一方的に行われたものだった。
それは、支配と快楽だった。
父はよく知っていた。
家の中での犯罪は裁かれることはないってことを。
ボクの中でセックスは父がするもので。
嫌悪しかないものだった。
欲望は汚かった。
父が妹にほざく。
「愛しているからだ」
「お前だって気持ちいいだろう」
妹を壊していく。
壊れていく妹をボクは見続けていた。
だから、セックスなんか嫌いだった。
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