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V.S 33
アイツは女の子の髪を優しく撫でていた。
団地の中の部屋の一つだ。
毛布にくるまり、女の子は眠っていた。
女の子の下半身はない。
上半身だけの身体をアイツの膝の上にのせて、女の子は眠り続ける。
半分失った身体が育つまでに、数週間はかかるだろう。
その部屋の片隅には爺さんが寝ていた。
多分こちらはもう目覚めない。
樹になりかけている。
樹になる方が身体に負担がないのだ。
土のあるところに連れて行ってやらなければ。
根を張り樹になるだろう。
長老も死んだ。
仲間はほとんど死んだ。
でも、アイツは何もかわらない。
知っているからだ。
死んだとしても生きていた昔よりアイツらはマシだったと言うことを。
アイツの優しい目、優しい指に胸がいたむ。
嫉妬?
違う。
この女の子はボクも好きだ。
この子は妹と同じような目にあっていた。
でも、妹とは違い生きることを選んだ。
妹と同じ年の女の子。
可愛くないはずがない。
ボクはアイツの隣りに座った。
「コレが終わったら・・・この子つれて、もう隠れて暮らさへんか。樹になった連中はどこか深い山に隠そう。ボクとあんたと、この子だけでそっと暮らそう。あかんか」
あかんのやろか。
ただ、あんたと一緒に静かに暮らしたらあかんのやろか。
オレとこの子を救うだけではあんたは足りへんのか?
アイツが顔をあげてボクを見た。
ボクの頬に指が伸ばされた。
優しく唇が唇に寄せられ、離れた。
「人間がまったくおらんとこやったらな・・・でも殺さずにはいられへんやろ。そうなってるんや」
アイツがいった。
殺人衝動。
人を殺さずにはいられない。
そうだ。
そうだった。
「それにオレは嫌や。死ぬよりひどい日々を生きてるヤツをほっとかれへん。お前もオレも知っているやろ。助けなんかあらへんのに、わからん何かに必死で助けを祈ったことがあるやろ。待ってるヤツのとこに行ったらな。オレが行かな、誰が行くねん?」
アイツはボクの肩に頭を載せた。
それにこの男は人を引き寄せてしまう。
この男の周りには人が集まってしまう。
そうすれば自然と始まってしまう。
コイツがコイツでなくなって生きることなど不可能だ。
「それにお前が言うたんや。オレがネットに放った呪いは日にちがたつほどに効いてくるって」
ボクらは呪われて生まれ、呪いそのものになる。
「オレはあきらめへんよ。オレはこの世界を壊す呪いになる。壊して・・・作り直すんや」
アイツは微笑んだ。
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