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V.S 37
少年が泣いていた。
あの男は笑っていた。
私が少年を抱きしめているのは、慰めるためではない。
少年を拘束するためだ。
「嫌だ!こんなの嫌だ!」
少年は泣く。
私も少年の気持ちは分からなくない。
でも、部下を殺した以上、彼らを全滅させなければならない。
部下の死を無駄には出来ない。
暴れる少年を抱きしめる。
男はガソリンをかけ燃やした。
枝や葉が燃えると、樹達は人間らしい姿を露わにし、燃えはじめた。
それを男は笑いながら見る。
「悲鳴も抵抗もないのがつまらないけど、これはこれで面白いな。あのビッチの顔色が変わると思うだけで楽しい」
男は上機嫌だった。
「せめて・・・見るな」
私は少年に言った。
見えない角度に抱きしめる。
私が残していたガソリンをかけ、男が燃やしているのは、樹になってしまった樹化人間達だった。
この団地の片隅に植えられていたモノ達だった。
「この人達は、何も悪いことしてないんだ。辛くて樹になってしまっただけで」
少年が泣く。
何の罪もない。
ああ、そうだ。
酷く扱われ、樹化人間になっても反逆もせず、樹になってしまった人々。
何の罪もない。
そして、今は男に燃やされている。
ただ、男の戦略に必要だと言う理由だけで。
でも、それを言うなら、死んでいった私の部下達にも何の罪もなかったのだ。
男は少年に言う。
「何度も言ったはずだ。コイツらは人間のように見えても、昔は人間だったとしても、もう人間じゃないんだ、お前はどちらの側なんだ?」
男は冷たく言い放つ。
私が抱きしめているのが気に入らないようだが、でも仕方ないのだ。
少年は火の中に飛び込みかねない。
だから気に入らなくても、男も何も言わない。
「お前は甘い、甘すぎる・・・それではだめだ!」
男は少年を見つめる。
どこか切ない表情で。
少年は暴れ続ける。
「もう、どうせ間に合わない」
私は囁いた。
樹は燃えながら折れていった。
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