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V.S 42

 ガキが僕を見た。  そんな目をするな。  そんな傷付いた目をするな。  僕には何も与えてやれない。  金髪みたいにお前が納得するような理由や生き方も。  僕はお前を傷付けるだけだ。   いつも目的のためになら、お前をボロボロにするし、お前を火で焼きさえする。  お前を繋いで閉じ込めるし、お前のプライドをきずつけるようなことも平気でする。  お前をお前の家族や友人から引き離し、僕だけのものにしている。  そうだ。  何もしてやれない。  お前に言わされなければ、「恋人」にもしてやれなかった。  僕専用の「穴」にしたままだった。  もしも、もしも、僕と出会う前に。  金髪があの無気味な相方と出会う前に。  金髪とお前が出会っていたら。  お前達は惹かれあって一緒にいただろう。  金髪はお前に与えられる。   お前も金髪に与えられる。  僕みたいに、お前から奪うだけじゃなく。  でも。  でも。  「人のもんに手をだすな!ビッチ!それは僕だけのもんだ!」  僕は怒鳴った。  僕はお前を離してやれない。  何があっても。  誰にも渡さない。  金髪は馬鹿にしたように言った。  「ゲスが。そういや、正義の味方みたいなこと言うてたな。お前の正義なんか笑えるわ!」  金髪が怒鳴った。  こっちに歩いてくる。  僕をなぶるつもりだな。  来いよ、ビッチ。    望むところだ。  「違う!」  ガキが叫んだ。  金髪は僕に向かう途中で足を止めた。  ガキを見つめる。  「この人の【正義】は偽物じゃない。だってこの人は、いつだってボロボロになってでもそうするんだ。耐えられないような痛みに耐えながらもそうするんだ・・・それだけの理由があるんだ」  ガキは僕を見ながら叫んだ。    僕は驚いた。  ガキ。  僕を信じるのか。  僕の【正義】を。  おそらく僕が口にする度に誰も信じちゃいない【正義】を。  僕だって信じてもらえるなんて思っていない【正義】を。  「この人は善人とは程遠いし、最低だし、卑劣だし、卑怯だし、人の命を利用することをなんとも思ってはいないけど、少なくともこの人が【正義】と言うだけの理由があるんだ」  金髪は不思議な生き物でも見る目で僕を見た。  金髪には僕の【正義】は信用出来ないものだろう。  金髪は【正義】なんか信じちゃいない。  自分達と、自分が助けられる者達だけが全てだ。   そうだよ。  僕は正義を信じている。  僕にだって正義はある。  そのためだけにやってきたんだ。    「外道、お前の正義ってなんや・・・聞いてみたなったわ」  金髪に問われる。  一歩近寄ってくる。    「答える義理はないけどな」  僕は言った。    「教えてくれ」  ガキが言う。  信じられない。  この僕の【正義】を信じるヤツがいたなんて。    また一歩金髪が近寄る。    仕方ない。  特別に教えてやろう。 ガキにだけ。  「お前の大事な人達を守ることだ」  僕は言った。  赤くなってしまったかもしれない。  「はぁ?」  「へぇ?」  金髪もガキもポカンとした。  コイツら悟れよ!  恥ずかしいこと言わせるな!  「僕はお前から家族や友人も、お前が大切にしていた世界も取り上げた。お前をその世界に返してやることは出来ない。でも・・・お前がいなくなった世界が、お前がいなくてもそのままある方がお前、いいだろ・・・?」  捕食者は現れて殺す。  相手を選ばない。  それはガキの大事な人達になるかもしれない。  葉っぱ人間達が人間に成り代わるのなら、そこで 追い落とされるのはガキの大事な人達かもしれない。    お前の世界をとりあげたから。  僕はお前の世界を守る。  それだけが僕の正義だ。  ガキと一緒にいるようになって本気で正義の味方になると決めたんだ。  だって僕はお前を手放してやれないから。

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