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記憶 20

 ボク達と大人の争いはピークに達していた。  何人も死んだ。  何人も殺した。  警察にも追われた。  ボク達は追い詰められ、その廃墟に集まっていた。  外には銃を持ったヤツらがいる。   ボク達の武器はもう尽きた。  「とうとうあかんか」  ボクはため息をついた。  もう、手がない。  使える手は全部使った。     ここまで来るのに何人も殺してここまできた。  でも、もう、何もない。  さすがにない。  ここまで残った仲間の一人は先程、撃たれてアイツに抱かれて死んだ。  本望だろう。  良かったな。    あんたは必要とされて生きれたんや。  悪ないな。  残ったのはわずか10人の仲間と、30名ほどの敵。 敵は銃を持っている。  「お前が言うならそうなんやろ」  アイツはいつも通り適当だ。  「ほんま、適当やな」  ボクはため息をつく。  「最後にもう一回やりたかったわ・・・」    アイツが悔しそうに言う。  「あんたの頭の中、そればっかりやな」  ボクの言葉に皆が笑う。  「セックスと仲間。それ以外あんま意味ないやろ」  あいつの笑顔は屈託ない。    「おもろかったな。でもな、ホンマはもっと違うもんみせてやりたかったんやで、お前らに」  アイツが少しせつなそうに言った。   「オレは面白かったです」  「オレも」  「オレも」  皆が笑う。  殺される前のガキ達には見えないはずだ。  ボクを含めて誰も後悔などしていなかった。    「ほんならいこか、待ってて殺されんのもアレやし」  アイツは鉄板がつま先に入った安全靴の紐を、しめなおした。  「何人かは一緒に連れて行くわ」  アイツはそうするだろう。  その靴を履いた蹴りで相手の頭をぶち割って。  「そやな」  ボクもサバイバルナイフを握り締めた。    何人殺せるだろうか。  皆それぞれの武器を手にした。    正面から出て、暴れる。  そのために歩きはじめた。  こんな馬鹿らしいことができるのはアイツと一緒だからだ。  ボクはアイツの隣に並んだ。  「・・・好きや。あんたしかいらん」  ボクは囁いた。     暗闇の底からボクを救い出してくれたのはコイツの手で。      その時からボクはコイツのモノだ。  想いも身体も・・・命も。  思いの丈を伝えたかった。  アイツはボクがそう言うと、いつもそうするような目をした。  遠い目だ。  ボクには届かない目だ。  「オレはお前に・・・」    アイツは言いかけてやめた。   「・・・オレもお前が好きや。お前がオレの最後の男や。すまんな。最初から最後までは数えきれんけど」  そう微笑んだ。  こんな時にでも真面目に答えてくれない。  何を言いかけたか気になったけれど、もう出口はそこだった。   「・・・こういう時はな、『好き』やなくて『愛してる』って言うんやで・・・」  唇を不意に重ねられた。  「愛してる・・・」  照れくさそうにアイツは言った。  ボクは。  ボクは何も言えなかった。  泣いていたのかもしれない。  「ほな、カッコ良く死のか!」  アイツが叫び、ボク達は敵のど真ん中へ飛び出していった。

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