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記憶23

 身体に響くドラムの音に興奮するように、ボクは高揚していた。  そのドラムの音は殺意と言った。  響く、心地よく、ボクの中でリズムを刻む。  生まれたての目で世界を見つめた。  世界はとても楽しいもので満ち溢れていた。   殺し尽くせるモノで。  ボクはゆっくりと起き上がった。  「まだ生きてるぞ!」  声がし、銃弾がまたボクの身体を通り抜けた。  そうされると痛みは確かにあったが、それ以上に、身体に響くそれがさらに増すのが心地良かった。  どうすればいいのかは知っていた。  ボクは足元の内臓をだらしなく放り出し、死んでいる男の肩に手をあてた。  ボクが殺した男だった。  ボクがナイフで腹を割き、中身を引き出してやった男だった。  ボクはその肩にゆっくりと根を張っていく。  ボクの手の平から根が伸び、男の中をゆっくりと満たしていく。  死体だが、こうすれば樹の代わりにはなる。  ボクの仲間にするには死体では無理だし、お前を仲間にするのは嫌だ。  でも樹の代わりにはなる。  根は身体に満ちた。  これが生きた人間ならば、根はその人の命を吸い込み、うごめき、その人そのものになる。  新しい、人間ではない存在に。  ボクの仲間に。  死体なら、数時間で枯れるが、樹の代わりにはなる。  ボクは根を切り離した。  これでいい。  後は触れるだけで。  「まだ平気だぞ!」  「何故死なない!」  うるさい声が聞こえる。  また銃弾が身体を貫く。    さあ、はじめよう。    ボクは男に触れ、そこに集中した。  リズムが聞こえ、思わず呻き声が出そうになる。  ああ、たまらない。  シてる時みたいだ。  全員殺そう。  ダン!  ボクの中でドラムの音がひときわ強く打ち鳴らされた。    ぐちゃあ    肉が貫かれる音がした。  男の身体を食い破り、おびただしい根が四方へ伸びはじめていた。  皮膚を食い破り出てくるものもあったが、耳、口と言う孔からはさらに多くの根が飛び出していた。  男の裂けた腹からは内臓を完全に押し出しながら根は飛び出していった。  根は育つ。  瞬く間にそだつ。  重なりあい、巨大な化け物となる。    きしゃあ  口のようなものを根は作り、叫んだ。  恐怖の叫びとあるだけの武器が火を放つ。  怯えてボクへ撃ってくる銃弾を重なりあった根が、防ぐ。  そして同時に、根は重なり合いそいつらへと襲いかかり始めた。  殺戮の時間の始まりだった    

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