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記憶25

 アイツは側頭部から血が出ていた。  おそらく、殴られたか何かで気絶していたのだろう。  死んだものだと思っていたから、ボクに殺されなかった。  ・・・少なくとも、この瞬間までは。  それは良かったのか悪かったのか。  アイツは呻き、その目を開けようとしていた。  血にまみれ、手足が飛び散り、臓腑が撒き散らされた、この中で。  ボクは息を荒げた。   出したはずなのに、あれほど気持ちよかったのに、アイツが動くのを見たら欲望が抑えられなかった。  記憶はもちろん残ってる。  そして、愛している。  もちろん。  誰よりも愛している。  でも。  いや、だからこそ。  殺したくてたまらなかった。  犯したい。  愛してる。  引き裂きたい。  同時にボクの過去が叫ぶ。  ダメだ。  コイツを殺してはダメだ。  コイツしかいない。  コイツだけだ。  愛してるんだ。    「愛して、る」  ボクは声に出して言った。    ボクはフラフラとそいつに近寄った。  愛しいボクの恋人のそばに。    触れたい。  良く知った甘い肌に、舌を這わせ、指で撫でたい。      そして歯をたて食い破りたい。  キスがしたい。  口内を甘く貪り、舌をからませたい     そしてその舌に歯を立て、噛み切ろう。  その胸を撫でて、乳首を吸い、舐め、噛んでそこだけでイカせたかった。     そして乳首を食いちぎれ。    慣れたアイツとのセックスは、アイツをなぶり殺すイメージに繋がっていく。  それはどうしようもない位、魅力的だった。  ボクのモノは痛いくらいに立ち上がっていた。    無意識のうちにアイツに覆い被さるようにアイツを見下ろしていた。  でもまだ身体はふれあわせてはいない。  触れたなら止まらない。  「ボクは・・・アイツとはちゃうんや!」  ボクは父親とは違う。  その思いがボクを止めていた。    妹を犯す父親の思い出がボクを辛うじて引き止めていた。  犯したくなど、ただ酷くするなんて。  あんな生き物にはなりたくない。  嫌だ。  嫌だ。  嫌だ。  アイツが目を開けた。  アイツの眼差しは優しかった。  ボクを認め、目が柔らかく細められる。  笑みを含んだ甘い眼差し。  アイツの目はいつものようにボクを映す。  でも、もうボクはいつものボクやない。  お前の知っているボクはもうおらへん。  ここにおるんは、化け物や。    「・・・死んだんか?オレたち?」  アイツが囁く。  「まだや・・・」  ボクはアイツを食い入るように見つめる。   愛しい。  殺したい。  犯したい。   身体が震える。  必死で耐える。  身体を離すべきなのにそれさえ出来ない。  アイツは周りを見回した。  そしてさすがに顔をしかめた。  飛び散る血、引きちぎられた肉片はここからでも見えた。  「・・・何があったんや」    アイツは尋ねる。  動こうとするが、思うようにいかないらしい。  思ったよりも重症なのかもしれない。  でも、ボクはそれどころではなかった。  抑えるだけで精一杯だった。  「ボクがやった」  ボクは言った。  信じないだろう。  でもそのことさえどうでも良かった。  触れたかった。  優しくふれたくて  引き裂きたくて  ボクはアイツの首に手を伸ばしていた。  もうこうするしかなかった。  生きたまま犯し、引き裂くよりも、楽に殺してやりたかった。    「・・・許して・・・。ボクはあんたに酷いことをしてまう。ボクはもう、人間やない・・・でも、あんたに酷いことだけはしたない・・・」  震えるボクの指にアイツは説明はなくても、何かを察した。  「・・・見ていた幻覚か。オレをなぶり殺す」  アイツが言った。  「アンタを殺す位やったら死にたい。でも、ボクはもう多分死なへん。」  それも分かっていた。    「・・・お前、泣いてるんか」  アイツに言われて気づく。  泣いていることに。  「泣きな・・・」  アイツはボクの頬に手を伸ばす。    「触ったらあかん、抑えられんなる!」  ボクは叫ぶ。  せめて、優しく殺させて。  苦しまないうちに殺させて。  「・・・ええで。好きにし」  囁かれた。  「脚の感覚とかもうないんや。オレもそんな長ないんや。好きにし・・・」  微笑まれ、頬を撫でられた。  肌に触れてしまって、衝動が止められない。  締めるはずだった指が喉から離れる。  

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