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王国の終焉1

 男はゆっくりとこちらへやって来た。  俺は身構えた。  あの人はのんびりと構えている。  スーツは銃を構える。  男の顔は無表情だ。  真っ直ぐに金髪のあの人のところへむかった。  地面に転がるあの人のところに。  今は頭部を失った身体を、大事そうに男は抱き上げた。  「・・・またあかんかったなぁ、今度はボクも頑張ったんやで」  死体に優しく話しかけた。  気が抜けるほどに、殺意はなかった。  「で、どうするんだ。お前は一人でコイツの夢の続きでも追うか?・・・させないけどな」  あの人が言う。  「それはないなぁ。コイツ無しでは叶わん夢や。・・・コイツがおったからこその夢や」  そっと地面に恋人を横たえる。  何故だろう。  とても幸せそうに見えた。  優しくその人の手を胸のとこて重ねるようにして横たえる。  「顔なくなったらキスしてやれへんなぁ・・・」  男は呟いた。  そして、重ねた指先に優しいキスを落とした。  「で、どうする?もうタネはバレてる。お前の能力を使う時、お前は無防備になる。お前が力を使う間守る葉っぱ人間も、従属者もいない」  あの人は言った。  そうだ。  この男の能力は凄まじい。  人間を変化させ、植物を操り攻撃する。  でも、その能力は限定的だ。  今のこの男は不死身なだけの男でしかない。  「あんたは、ボクを殺せるんやな?」  男は尋ねた。  あの人は怪訝な顔をした。  「当然だろ。でなきゃここまで身体をはるわけないだろう」  あの人の言葉に無表情だった男が笑った。  人間味のなかった顔が華やいだ。  とても綺麗な男なのだ、と思った。  「ほんなら、殺してもろおうかなぁ」  男はのんびり言った。  「何故そんなに嬉しそうなんだ」  あの人が俺も思っていた疑問をぶつける。  「・・・そうやな、やっとこれでコイツはボクだけのもんやからな」  男は微笑んだ。  そうだ。  この男の愛する人は、男だけのものではなかった。  どんなにこの男を愛してくれても、男のものだけではなかった。  「アイツの夢はボクも本気で望んだことや。でもなぁ。あんたやったらわかるやろ?ボクもあんたみたいにしたかったわ。他の奴らから切り離して、ボクだけのもんにする。憧れるわ。なかなか出来へんやん?そんな卑劣なこと」  あの人に心底感心したように言う。  あの人は誉められたのか貶されたのかわからなくて、怒るか笑うかで悩む。  こんなあの人は珍しい。  「卑劣にはなれへんくてな。アイツに嫌われるのは嫌やから。アイツはその子とは違って卑劣を許してくれるようなヤツではなくってなぁ」  男が言う。  いや、俺、別に卑劣を許しているわけではないよ!?  俺も複雑になる。  「コイツがおるとこやったら、ボクはどこでもええんや」  男は微笑む。  あの人も俺もなんだか毒気が抜かれている。  スーツだけは臨戦体勢だったが、銃など捕食者には効かない。  「じゃあ、送ってやるよ」  あの人の右手の銃が男の顔に向けられる。  「頼むわ」  男は頷いた。  拍子抜けだった。  こんなに簡単に・・・。  「ああ、そうや」  男はふわっと笑った。  「忘れんうちにな」  男のナイフが俺の首をかききった。  全く気配がなかった。  そんな間合いになっていることにも気づかなかった。

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