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王国の終焉5

 女の子はいた。  部屋の一つに隠されていた。  もう一人のおじいさんは、もう樹になっていた。  あの樹になってしまった女の子のように、外見は人間だけど、さわれば樹になっていて。  もうすぐ、枝や葉が伸びるとあの男は言っていた。  女の子は上半身だけの姿で毛布にくるまり眠っていた。  スーツとあの人には、部屋の外で待ってもらった。  スーツは抵抗しないなら女の子を殺さないと約束してくれた。  毛布ごと女の子をだきあげる。  女の子が身じろぎした。  やはり植物には見えない。  暖かい。  人間の感触だ。  人間は上半身だけでは生きられないけど。  「リーダー?」  女の子がつぶやき、目を開けた。  そして、俺を見て目を見張る。  小さな声が囁く。  「・・・リーダーは?」  俺は首を振った。  女の子の目の中の光が死ぬ。  スーツは言った。  実験体といえば聞こえが悪いが、もはやこの世界に一体しかいない人間に擬態した植物である彼女は、彼女さえ協力的ならば大切に扱われると、  自由は制限され、監視もあるが、でも丁寧に扱われると。  それがいいのかはわからない。  でも殺されるのがいいとは思えなかった。  俺は女の子に説明する。  「俺も会いに行くよ・・・死なないで欲しいんだ」  君だけでも死なせたくないのは、俺のエゴだ。  「あの人の彼氏に殺されかけた。首を斬られた。俺は首を切り離されなきゃしなないから。でもね、その時、声がしたんだ」  俺は思い出す。  全く気付かなかった、ナイフが喉を斬って行くまで。  ただ、その前に聞こえたんだ。  「下がるんや」  やけにはっきりと聞こえた、あの人の声だった。  俺は思わず一歩下がった。  深い意味はなく、その声に従って。  その一歩が生死を分けた。    「あの人が俺を助けた。そのお礼と言うわけではないけど、すぐにというわけにはいかないけど、でも俺は君を助けるから。君を自由にするから」  俺は必死で女の子に言った。  あの人の救済が死以外であってもいいはずだ。  そうだろ?  「君を助けたんた、リーダー。リーダーらしい」  女の子は笑った。    女の子の指が優しく俺の髪を撫でた。  「ありがとう。君は優しいね・・・君の彼氏は最低だけど」  ドアの外で罵る声がした。  いや、事実だろ。  あんた最低だし。  「でも、もういいや。リーダーもいないし、もういいや」  女の子は笑った。  寂しい笑顔だった。  女の子は目を閉じた。  女の子の身体の感触が変わっていく。  柔らかな身体が樹の感触に。    生きるのが辛すぎる子は樹になる・・・。  そう教えてくれたのはこの子だった。  俺は膝にその子を載せたまま両手で顔を覆った。    俺は中途半端だ。  誰一人救えず、あの人みたいに徹底的に対立もできず。  俺は。  恋人みたいに残酷な、でも、正義の味方にもなれないし。  金髪のあの人みたいに世界を変えようとする事も出来ないし、  あの男みたいに、ただ愛する人を全てにすることも出来ない。  俺は中途半端だ。  俺は女の子を抱き上げたまま、部屋の外に出た。  「どこへ行く」  あの人が咎めるような声で言った。  「土のあるところ。後でおじいさんも連れて行く」  俺は言った。  あの人は何か言いかけた。  でも止めて、黙って俺を行かせてくれた。  土に置いてあげる。  根を張るんだろ?  樹になれたら、少しは幸せか?  人間でいるよりは幸せか?    俺は切なかった。  この子の僅かな幸せな時を壊したのは俺達だったから。    

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