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好きな人の隣
大学から一駅分くらい離れた街寄りにある焼き鳥居酒屋。直前まで行くか迷っていた。行くと言ったはいいものの、もし自分のこの気持ちを悟られてしまったら·····。と恐れる気持ちが無いわけじゃない。
だからといって大樹先輩に『ちゃんとこいよ?』と笑顔で言われたからには行かない選択をしたら後ろめたさを感じるような気がした。渉太は講義が終わり大学の門の方と待ち合わせ場所の講義室の方角を無意味に行ったり来たりしていた。
邪な事を考えないようにしていればいい。そう頑なに決意しては意を決して待ち合わせ場所に向かう。
大樹先輩は自分を見掛けるなり大きく手を振ってきて渉太は恥ずかしくなった。
移動までの間、大樹先輩の話を沢山聞けた。
天体の話はもちろん最近の活動の話だったり、今見ている光景が夢かのようにすら思えた。やっぱり思い切って行動してよかったかもしれない·····。
店に着くと大人数でも入れる、横並びの座敷の間に案内され引き戸の近くに大樹先輩と並んで座る。サークルのメンバーも既に到着していて男女数名が既に盛り上がっていた。当然来るなり、注目は滅多に来たことがない自分へと向けられる。
一時期関わったことのある人からは『久しぶりー』なんて言われ、遠くの方からは『あいつ誰?』なんて名前も存在も忘れられた声が聞こえる。一部の顔見知りの子からは『最近来ないけどどうしたの?』だとか深く突っ囲まれ、返答に困っていると隣の大樹先輩が『久々のやつにそうつっかかるな』と助け舟を出され、安堵した。
そんなのも数分のことで皆個々に馴染み同士で喋りだすと自分はあっという間に孤立する。時折、大樹先輩が気にかけては、話を振ってくれるも会話に慣れてない自分は大した返答もできず会話を止めがちだった。
こんな詰まらない自分でも気にかけてくれる大樹先輩。惨めでもう充分だからキリのいいところで帰りたい·····。
「大樹、お待たせ」
飲み会が始まって40分位して、引き戸が引かれ店員さんかと思えば、背後からふわふわな黒髪の緩やかなパーマで黒縁メガネの男が入ってきた。
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