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「お、律仁。きたか」 明らかに店の従業員ではないその男を見るなり、大樹先輩は右手を挙げ、やたらとその男と仲が良さそうな雰囲気を醸し出していた。 注目が一気にその男に集まり、渉太も大樹先輩と仲良さげなその男が気になった。 手首にアクセサリーなんかつけて社交的と物語っているような容姿に引っ込み思案な自分とは一生縁の無さそうな男。 「どうもー」 男は皆に向かって挨拶をすると、通りがかった店員を呼び止めて、自分の飲み物を注文する。頼み終わると空席だった自分の丁度向かえ側に座ってきた。目が合いニコリと会釈されては、見慣れない部類の人物の笑顔に渉太はすかさず逸らした。 「お前、遅かったな」 「あーちょっと色々·····」 この人と大樹先輩はどういう関係なんだろう·····。その疑問はその場にいた誰しもが思っていたのか、気づいたら男に数名の女子が集まってきて詰め寄ってきていた。 確かに眼鏡で素顔はよく分からないが、渉太も反射的に俯くほど女子に好かれそうな整った顔立ちの類なのは間違いない。 「大樹先輩、この人誰ですかー?」 「ああ、紹介してなかったな。麻倉律仁(あさくら りつひと)」 「律仁でいいよ。よろしくね」 男のまさにアイドル顔負けの笑顔に周りの女子らは照れたのか、顔が仄かに桃色に染まっていた。最初にその笑顔を向けられた時、自分も照れはしていたが2度目に見ると何処か作られたようその笑顔に渉太は違和感を覚えていた。 「大樹先輩のお友達ですか?」 「まーそんなとこかな。な?大樹?」 女子の1人がそう男に質問しては、そうとは断言していないような曖昧に濁らせたような返事する。

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