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「まー、そうだな」
大樹先輩もそれに同調するだけで、もっと複雑な関係なのかと勘ぐりたくなったが、周りはそれよりも男に興味津々なのか質問大会が繰り広げられていた。
「律仁さんってなんか律に似てるって言われないですかー?」
律という言葉を聞いて胸がドキリと波打った。
「よく言われるよ。でも、あんなに俺は格好良くないよ」
確かに似て無くはない気はするが、如何せん眼鏡を掛けているので素顔の印象が分からない。
「メガネ取って見てみてくださいよー。」
「恥ずかしいからダメ。君の方が人気女優の優奈 に似てると僕は思うよ」
律仁に煽てられて女子が照れたように笑う。
お世辞にもその子は女優の優奈とは似ても似つかない。優奈はハッキリした二重でキレイめな女優。だが、今目の前に居る女子はキレイめの一際目立つ女性というよりは今流行りの大人数のアイドルグループの中に居そうな女の子に見える。
調子のいい事を言ってて自分は得意なタイプではないなーなんて思っては、向かいの男を眺める。
「渉太。大丈夫か?」
何も考えずに眺めていたせいか、隣の大樹先輩に話しかけられた時、口から心臓が出るほど驚いた。心配そうに眉を寄せてこちらを見てくる先輩。
「あ、はい」
「別に驚かせる気はなかったんだけど·····渉太、こういうとこ苦手なの分かってたのに強引に連れてきちゃったし、退屈してないかと思って·····」
大樹先輩が見て分かるほど自分が思いのほか身体を跳ね上げていたことに羞恥する。
「大丈夫です」
「そっか、なら良かったんだけど·····」
渉太は慌てて右手を顔の前で左右に振る。
常に周りだけじゃなく自分にも気配りをしてくれる先輩はやはり優しくて格好良いい。
むしろ、退屈どころか改めて自分の好きな人の事や良さを発見できて愉悦さが増した。
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