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周りの様子を見ながらグラスに口を付けている大樹先輩の横で渉太は話をするなら今だと 思っていたが、緊張で何を話せばいいか頭が真っ白だった。いつもの天体の話をすればいいのだろうか、それとも渉太が密かに気になっている恋人の有無について·····。 そんなこと怖くて聞けない·····。 「俺ちょっと向こう行ってくるわ」 そんなことを考えているうちに大樹先輩が立ち上がると別の奥のテーブルへと移動してしまった。 「はい·····」 渉太は強く引き止めることもできず、「渉太もくるか?」なんて誘われたが首を横に振って拒否をした。所詮自分は、大樹先輩を遠くで見ているだけで精一杯。 積極的にと言われても上手く行動にすることなんて出来ないし、拒絶された時の代償は大きい。 この辺で引き時だろうか。 これ以上、何かヘマをして恥をかかないためにも大人しく帰った方が、今日はいい日のままで終われるような気がした。幸いにも、大樹先輩は別卓で盛り上がっているみたいだしきっと自分が帰った所で誰にも気づかれない。 渉太は鞄を持ち腰を浮かそうとしたところで、目の前の男と目が合う。 自分とは合わなそうな律仁·····とか言う人。 先程まで女子たちに囲まれていた筈の男の周りは誰もいなかった。 テーブルの端っこで離れ小島のように二人だけぽつんと向かい合っている異様な光景。 「なんか飲む?」 渉太の空いたグラスを指してきては問いかけてきた。

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