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もしかして·····なんて思ったけど、いくら優しいからって彼女がいる身で泥酔した自分をこんな高そうなホテルにわざわざ泊まらせてくれるなんてしないだろうし·····。 でも、渉太の中で大樹先輩くらいしか自分を気にかけてくれそうな人物はいなかった。 誰にしても、相手に迷惑を掛けたことには変わりない。しかし、もしかしてなどと一度気になってしまうと怖いもの見たさで見たくなってしまうもので、渉太は隣のベッドへと近づいた。 流石に上裸のまま布団から出るのは恥ずかしいのでベッドの上に畳んであった浴衣を羽織り、適当に前を縛ると相手を起こさぬよう徐々に近づいては布団を少しだけ捲る。 捲った布団の先で薄目で睨むような瞳と目が合った途端に急に手首を引っ張られては、布団に潜り込りこんでしまった。 潜り込んだ先に生身の暖かい人肌を頬で感じ、誰かの胸板だと気づく。 誰だか分からない男の直の胸板に抱かれていると認識した渉太の顔は一気に熱くなり、慌てて突き放した。 顔など見る余裕もなく、兎に角その場から離れたくて無我夢中でベッドを抜け出しては、元の場所に戻ると布団を頭から被って体を丸めた。今まで恋人などいたことのない渉太にとって人肌に触れたことなど初めてのことで、頭が真っ白になる。 「渉太くん?大丈夫?」 布団の外側から、自分の名前を呼ぶ声がくぐもって聴こえてきて渉太は恐る恐る顔を出した。目線の先には自分が今着ているものと同じ、ホテルの備え付けの浴衣の裾が見える。顔を上げ、見上げてみるとそこにはユルっと髪をうねらせ、煩わしそうに梳き上げながら、黒縁眼鏡の男が此方を見ていた。

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