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「その曲いいよね、俺も好きだよ」 スマホを大事そう胸に抱え持っては、何事もなかったかのように向かいの椅子に座ってきた律仁さんを目で追っていた。 「あ·····いいえ」 当たっているのに、気持ちとは裏腹に嘘をついてしまう。自然と伏し目がちになっていた。別に自分が律を好きだからって恥ずべきことじゃない。律には男性のファンだって沢山いるし·····。頭では分かっているが、人に話すのは好きの度合いも桁違いだから引かれるような気がして素直にはなれなかった。そして、人の目を気にして好きといえない自分に嫌気が差す。 「別に隠さなくてもいいよ。それに好きなものには胸張って正直にならないと。律が悲しむよ。律だって君の気持ちを糧にして頑張ってるかもしれないじゃん?」 眼鏡の奥の目が優しく笑う。思わず胸がその笑顔に掴まれたようにキュッとなってしまった。てっきり自分のことをからかってくるものだと思っていたから真面な事を言ってくる律仁さんに呆気にとられては静かに頷く。思わず納得してしまう自分と同時に堂々とする勇気を少し貰った気がした。 「あの、大樹先輩に聞いたんですけど律仁さんって通信の生徒なんですよね。」 苦手だとか表面だけを見て思っていたけどで本当はいい人なんじゃないだろうか·····。 「あぁ·····一応、渉太くんの先輩になるね」 「はい。だから·····なんで此処にいるんですか?大樹先輩から仕事しながらって聞いてたので·····」 通信教育で通ってる生徒は働きながらだったり、色々事情を抱えている人が大半だから普段は大学の構内に来ることは滅多にない。 大樹先輩から聞いた話だと律仁さんは仕事をしてるって言っていたし·····。 「大樹から俺のことどこまで聞いた?」 律仁さんが急に顔を顰めながら、聞いてくる。その表情に圧倒され渉太は気持ち、身を引かせる。何が不味いことだったんだろうか·····。

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